Good for Me 編集部が出合ったベターライフ。

校正者の岩國早苗さんに聞いた、25歳の僕に読んでほしい本。『犬ではないと言われた犬』December 28, 2024

校正者の岩國早苗さんに聞いた、25歳の僕に読んでほしい本。「犬ではないと言われた犬」

言葉と向き合う。

仕事で出会った先輩方に、今の僕が読むべき一冊を教わる本連載。第2回目は、アンドプレミアム本誌で毎月お世話になっている校正者の岩國早苗さんに聞きました。

校正者とは、編集者が提出した原稿に対して、誤字・脱字や内容の矛盾などをチェックする存在。読者として軽い気持ちで読んでいた雑誌の文章が、一文字単位で丁寧に確認されたうえで書かれていたことを、入社してから思い知りました。はじめて自分の書いたものを校正してもらったとき、赤字の修正で真っ赤になった原稿が戻ってきて、小学生ぶりに紙の国語辞典を買い直したことも。辞書を引くと、想定していた言葉の意味と異なることが度々あり、いかに自分がなんとなく日本語を使ってきたのかを気付かされます。

校正という仕事を通して日々、言葉と向き合っている岩國さんが「日本語の勉強になる」と紹介してくれたのは、向坂くじら『犬ではないと言われた犬』(百万年書房)。

書くことはひとりぼっち。

2024年に刊行された本書は、詩人の向坂くじらさんによる、「言葉」をめぐるエッセイ集。向坂さんは詩のワークショップや小学生から高校生向けの国語教室「ことぱ舎」を主宰していて、読むこと、書くことを教える立場を通して考えたことが独自の言語感覚で語られます。

読みはじめると、見たことのない言い回しの連続で、ページをめくる手を止めて思いを巡らせる時間が何度もありました。それは決して難しいからではなく、「てにをは」を変えるだけで文章の意味がこんなにも違って伝わるのかという驚きや、慣れ親しんだ言葉だけでなんて美しい一文が作れるのだろうという感動からくるもの。特に心に残ったのは、愛にまつわる話に登場した「私が愛に足りなかったのだ」という一文。「私に愛が足りなかったのだ」ではなく、愛に対して私が足りていないと捉える著者の視点がとても新鮮に感じました。岩國さんがこの本を教えてくれたときに「日本語を楽しく使わなきゃと思った」と話していた理由がわかったような瞬間でした。

一冊を通して描かれているのは、書くという行為の孤独さ。書き方を教わることはできても、言葉と向き合うときはひとり。それでも書き終わった文章を通じて、読んだ人と書いた人は繋がれる、ときにそれは会話を通して相手を理解するよりもずっと深いところまで同じ景色を共有することができるのだと、本書を読んで改めて感じました。

Book Information『犬ではないと言われた犬』

校正者の岩國早苗さんに聞いた、25歳の僕に読んでほしい本。『犬ではないと言われた犬』

著者:向坂くじら
定価:¥1,760
発行:百万年書房


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Editor 出口 晴臣

『&Premium』編集部。本誌とデジタルを担当。HIPHOP、サウナ、カレーが好きです。最近興味があるのは、登山、多肉植物、自転車。

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