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もがきながら珍道中の、アムステルダム移住生活。写真と文:壱岐ゆかり (フローリスト) #2July 08, 2025

オランダ・アムステルダムに来て2日後から、息子は現地の学校に通い始めた。英語もオランダ語もまだできないけれど、卒業した小学校に通っていた時と変わらないくらい、通常運転。とにかく「行く」という姿勢で通ってくれている。

もがきながら珍道中の、アムステルダム移住生活。写真と文:壱岐ゆかり (フローリスト) #2

毎朝・夕、自転車でふたり乗りして送り迎え。これは保育園時代以来のこと。まさか息子が中学生になってまで、こんな時間が持てるなんて思っていなかったけど、アムステルダムの街並みを眺めながら走る時間がとにかく気持ちがいい!

車で行くこともあるけれど、自転車に乗って、ふたりであれこれ話しながら移動するのが、一番好きな時間。

咲き乱れる草花の間を必死にこぎながら帰る30〜40分は、まるで映画のよう。

日々、自分の目がレンズになったような気持ちで記録している。じわります(笑)。

もがきながら珍道中の、アムステルダム移住生活。写真と文:壱岐ゆかり (フローリスト) #2
12歳の息子と、ヨーロッパでの新しい暮らし。写真と文:壱岐ゆかり (フローリスト) #1

「今日はどうだった?」と聞く余裕もなく、すべての過程をすっ飛ばして生きていた東京での毎日から、このステージに来れた。限られた時間の使い方を、自分で選べている気がする。

夜、寝る前(と言っても22時頃までめっちゃ明るい!)に、オレンジ色に広がるおいしそうな夕陽を家の窓から眺めて1日が終わる。

今は日本とのやりとりで私の一日はあっという間に終わってしまうけど、日本との距離を感じない感覚と、朝夕の自転車の時間、そして夕陽が、じんわりと自分を満たしてくれている。

もがきながら珍道中の、アムステルダム移住生活。写真と文:壱岐ゆかり (フローリスト) #2

「この展示、観に行きたい!」
「どこどこがおいしかった!」
「この店がすごくいい!」

情報も人も、あらゆるものに溢れている東京。情報は常に入ってくるけれど、結局どこにも行けずじまいで終わっていた日々から、アムステルダムに来て、情報の詰まり方がまだ緩い分、自分にスペースができた気がしている。

自転車に乗っている時間のように、何か達成したわけじゃないけど、「ただ生きている幸せ」、みたいな感覚が、少しずつ増えてきている。まだ移住して間もないからかもしれないけれど、オランダ? 距離をとった生活? ゆえの感覚かもしれない。

全部が初めてで、当たって砕けろを繰り返すような毎日そのものに、行ったことない展示やお店に行く時と同じ感覚で、眩しいエネルギーが宿っている気がしていて(笑)。

“完成された何か”の紹介や、具体的な紹介よりも、その美しい過程そのものを共有できる、そんな自分でいたいなと思う日々。いつかそれが、誰かにとって「素敵」と感じられるようなものになったら嬉しい。

アムステルダムに来る前は、「あそこに行ってみたい」「このお店気になる」と、行きたい場所や見たいものが山ほどあったけれど、今は、生活のクオリティを満たせる余裕が引き出しとして増えたのかもしれない。

もがきながら珍道中の、アムステルダム移住生活。写真と文:壱岐ゆかり (フローリスト) #2

たまたま隣に住んでいた、たくさんのちびっ子がいるオランダ人一家。実は8年間、恵比寿に住んでいたそうで、「あら、近いところにいたのね!」という会話から始まり、話題は“クオリティと安心”についてへ。

どの町でも、「クオリティの高さ」と「安心感」は比例していて、東京もアムステルダムも両方を知っている彼らにとって、こうだった。

「東京の濃い情報に囲まれて、安心しながら、切磋琢磨する日々。でも、子どもが生まれてからは、その情報密度から少し距離をとって、アムステルダムへ。東京のクオリティの高い入り乱れる様々な情報は、唯一無二。でも、親になった今は、“情報”よりも“時間”のクオリティが必要な時。人生の節目ごとに、そうして住む場所を変えていけたら、地球のどこもきっと、自分次第で最高の場所になるんだ」と。

もがきながら珍道中の、アムステルダム移住生活。写真と文:壱岐ゆかり (フローリスト) #2

アムステルダムに来てすぐの数日間、あれこれ掃除してバタバタしていた私に、彼女がこう言ってくれた。

「深〜呼吸! ほら、やってみて! 自分を大事にする時間があっても、誰も怒らないから、ゆっくり深呼吸するのよ!」


フローリスト 壱岐 ゆかり

iki_profile
いき・ゆかり/横浜市生まれ、カリフォルニアで高校大学を過ごし大学卒業後、東京へ。インテリアデザインとPRの分野でキャリアをスタートした後、2010年に東京・代々木上原に花屋『THE LITTLE SHOP OF FLOWERS』をオープン。原宿キャットストリート店、明治神宮前店、渋谷パルコ店、そして祐天寺路面に、店舗を移動しながら、日本の和花の静かな気品と西洋の花々を織り交ぜた表現で活動。2025年、息子と二人、花の町オランダ・アムステルダムでの拠点をスタートしたばかり。

instagram.com/thelittleshopofflowers

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