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オホーツクにて、原生花園との出合い。 連載コラム : 鈴木優香 #1February 05, 2025
昨年の6月下旬に、1週間ほどかけて北海道の知床や根室などを巡りました。そのときに初めて知ったのが「原生花園」の存在です。原生花園とは、人為的な手を加えず自然をそのままにした状態でも色鮮やかな花が咲く、湿地帯や草原地帯のこと。オホーツク海の沿岸部に多く分布しており、道東エリアでは各地に原生花園が見られます。
小清水原生花園は、女満別空港から斜里町へ移動している途中にたまたま通りかかりました。北海道の道花であるハマナスのピンクをはじめ、エゾスカシユリのオレンジ、エゾカンゾウの黄色、ヒオウギアヤメの紫。ふいに現れた広大な花畑に、夢を見ているような気持ちになったのを覚えています。その花々を求めて無数のエゾシロチョウが乱舞する光景は、美しくもあり、狂気的でもありました。
私は日頃から山に登っているので、山岳地帯に咲く高山植物に触れる機会は数多くありました。けれど、海沿いの平地に野生の花々が群生している光景は、初めてだったのです。山以外にもこのような場所があるのだということを知ったとき、なんだか心が満たされていくように思いました。もうひとつの拠り所を見つけたというか、そんな感覚です。
これを機に、旅の後半にもいくつかの原生花園を巡ることにしましたが、植物の種類や規模もそれぞれで、ますます興味が湧くばかり。
野付半島の原生花園ではエゾシカやキタキツネに出会い、根室の北方原生花園では放牧された馬を眺めつつ、ゆったりと流れる時間を味わいました。斜里にある以久科原生花園は入口まで行ってみたものの、居合わせた地元のおじさんに「数日前にヒグマを見たよ」と言われて引き返すことに。代わりに知床博物館で植物図鑑を購入したので、また次の機会に訪ねてみたいと思っています。
edit : Sayuri Otobe
山岳収集家 鈴木優香
東京藝術大学大学院修了後、アウトドアメーカーのデザイナーを経て独立。現在はライフワークとして国内外の山を巡りながら、写真やデザイン、執筆などを通して表現活動を続けている。山で見た景色をハンカチに仕立ててゆくプロジェクト「MOUNTAIN COLLECTOR」(2016〜)、写真展「旅の結晶」(2023/gallery nagu 、2024/GALLERY CLASKA)