&EYES あの人が見つけたモノ、コト、ヒト。

大きい子にも旅をさせよ。鳥越すず竹細工のこと。 連載コラム : 在本彌生 #1February 04, 2025

 心惹かれるものにふれて目撃したい、そんな衝動からあちこちを彷徨っている。なにか匂うなとおもった方に進んでいく。旅に多大な期待をしない、その方が予想もしていなかった凄いことが起こるものだ。何がそれを操作しているのかはわからないが、大抵の場合、感覚に忠実に動いていれば、その時の自分に必要なこと、もの、人に遭遇するようになっていると信じている。それらは何かのサイン、あるいは教えのようなことなのかもしれない。だから、出先で何か気になることに出会ったりハプニングが起きると(あ、なるほど、今回はこれだったのか!)とハッとする。ここで書いてみよう、あちこちでハッとしたことについて。

 岩手県一戸市に鳥越という集落がある。すず竹という非常に細い竹を素材でつくられる「鳥越すず竹細工」はこの土地の名産品だ。見た目が美しいだけでなく、すず竹の籠はとても軽く丈夫で使い勝手が良い。この鳥越で竹細工の作品を作り続ける柴田恵さんの仕事や暮らしと作品群を写真に捉え本にまとめるべく、著者の堀惠栄子さん(『gallery keian』主宰)と鳥越に通うことになった。

旅の話。「鳥越竹細工」。連載コラム : 在本彌生 #1
旅の話。「鳥越竹細工」。連載コラム : 在本彌生 #1
旅の話。鳥越竹細工。 連載コラム : 在本彌生 #1

 柴田さんが作った籠を目の前にするとうっとりとしてしまう。細やかな編み目が作り出す造形や洗練された仕事は、この土地の自然と彼女の力が重なって成り立っている。眺めているとひたひたとエネルギーが伝わってきて、腹の底から感動が込み上げてくる。目が、心が、喜ぶ感じだ。

旅の話。「鳥越竹細工」。連載コラム : 在本彌生 #1
旅の話。「鳥越竹細工」。連載コラム : 在本彌生 #1

 かつては分業だった制作の工程だが、現在はそのほとんどを柴田さんはおひとりで完結している。素材のすず竹を薮に入って刈り取ってくることから仕事は始まる。私もカメラを手に柴田さんのスピードに必死にしがみつくように進んでいった。それにしても、竹藪に神秘的なムードを感じるのは何故だろう。すず竹に囲まれるように身を埋めると五感がフル稼働し、風の音や青い匂いを強く感じた。スリムな柴田さんは身の丈をゆうに越える竹薮を分け入りながら素早くすず竹を収穫してはまとめていく。なんと頼もしい姿だろう! まるで野を駆けるもののけ姫のようだった。あの美しい籠の背景にはこんなに野生的な光景と仕事がある、それを見知って、ますます柴田さんの編む籠に特別なエネルギーを感じるのだった。

旅の話。「鳥越竹細工」。連載コラム : 在本彌生 #1
旅の話。「鳥越竹細工」。連載コラム : 在本彌生 #1

 そんな柴田さんの作品が、今日2月4日(火)から『森岡書店』で展示される。ぜひ足を運んでみてほしい。

edit : Sayuri Otobe


写真家 在本彌生

東京生まれ。雑誌、書籍、写真展などで作品を発表。世界各地の衣食住に根付いた美を求め撮影する。写真集に『わたしの獣たち』(青幻舎刊)、『熊を彫る人』(小学館刊)、『インド手仕事布案内』(小学館刊)など。

instagram.com/yoyomarch

Pick Up 注目の記事

Latest Issue 最新号

Latest Issuepremium No. 135部屋と心を、整える。2025.01.20 — 960円