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すばらしき「ハトヤ芝居」 その2。 連載コラム : 三浦哲哉 #2January 16, 2025
デンゼル・ワシントンがまな板の上の鮮魚のように、台の上でピチピチ跳ねている。というか、猛烈にガクガクブルブルしている。
SF映画『デジャヴ』(2006)の中の有名な一コマだ。
さまざまな「ハトヤ芝居」の中でもとくに強烈な印象を残す、最高傑作の一つではないだろうか。「ハトヤ芝居」とは、何かが活きよく跳ねたりする動作を、あくまで芝居としてつくりだすムーブのこと。あの往年の名CMにちなんで「ハトヤ芝居」と勝手に呼んでいる(前回参照)。
さて、デンゼルはなぜ台の上でガクガクしているのか。簡単に説明すると、タイムマシーンで過去へ転送されたから。台とは、手術台のことである。タイムリープするとそのショックで心臓停止してしまうため、デンゼルは行き先を、病院の手術台の上に設定した(なんという無茶……)。
もし手術台の上に転送したとき、しーんとしていたら誰も気づかず、放置されただろう。ところが、デンゼルの体は猛烈に振動し、盛大な音を立てる。だからその隣でオペをしていたドクターたちもびっくりしてすぐ気づき、ただちに蘇生措置を施し、彼を復活させる。
ガクガク振動するこのときのデンゼルが本当に最高。それ、自分でやっているだけですよね?!という感じがするわけだけれど、その開き直り方がなんともユーモラスで、ぜったい強行突破するぞ!という気迫に胸打たれるのだ。
たまに見返すと、そのたびに激しいガクガクブルブルぶりに驚く。私たちが真似しようと思ってもできるレベルではないだろう。本当に痙攣しているのかも?とも感じる。身体能力がすごいのか、それともオムロンの低周波治療機などを仕込んでいるのか。
edit : Sayuri Otobe
映画研究者 三浦哲哉
1976年生まれ。福島県郡山市出身。青山学院大学文学部比較芸術学科教授。専門は映画研究。食についての執筆も行う。著書に『自炊者になるための26週』(朝日出版社、2023年)、『ハッピーアワー論』(羽鳥書店、2018年)など。