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“トム”に沼るきっかけは、映画『プライベート・ライアン』。トム・ハンクスが好きすぎる話。イラストと文:藤原さくら (シンガーソングライター) #1May 07, 2025

トム・ハンクスが好きだ。

哀れなトム、かっこいいトム、頼れるトム、子連れのトム、イヤミなトム、銭形のトム、子どもだったトム、人形のトム、色々なトムがいる。

最近は友達にトムの話をすると、「もう“トム”って言いたいだけだよね?」と言われる始末。そう、トムという響きもいい。

タ行は固いのに、マ行が柔らかいからファニーな感じになっている気がする。

トム・クルーズはトム・クルーズと言いたくなるし、トム・ホランドはトム・ホランドだが、トム・ハンクスは“トム”と言いたい。(多分、わたしだけなので気にしないでください)

何度でも言いたくなるので、この1か月の連載でゲシュタルト崩壊寸前まで“トム”という字面に触れることになるだろう。ご容赦いただきたい。

トムの作品には幼い頃から数々触れてきた。

『フォレスト・ガンプ』、『キャスト・アウェイ』、『トイ・ストーリー』。挙げ始めればキリがなく、映画史にトムあり。名作にトムありだ。

そしてトムの話を振って、トムの映画を見たことのない人はほぼ存在しない。

しかも同じ業界の人ともなると「トムといえばあの映画が面白かったよね? 見た?」と危うくマウントを取られる危険性すらある。「トムが居酒屋でめっちゃ優しかった話、知ってる?」と映画関係なくトムは人気なのだ。

さて、このままだと止まらないのでそろそろ本題に移ろう。

今回取り上げるのは、『プライベート・ライアン』。

【修正版】トム①_イラスト

監督はみなさんご存知、スティーブン・スピルバーグだ。観るのは2回目だったが、同じ映画を色んなタイミングで観ると、自分の成長や考え方の変化も分かって面白い。

舞台は第二次世界大戦のフランス。D-Dayy(ノルマンディー上陸作戦開始日)の後、「ライアンという男を見つけ出してアメリカに連れ戻してこい」と命じられたトムが、即席の仲間を引き連れ激戦の最中、ライアンを探しに赴くというストーリーだ。

冒頭のオマハビーチ上陸のシーンの描き方は特にショッキングで、私は心臓がバクバクして何度か映画を止めた。

このシーンはドイツ軍の姿がほぼ描かれておらず、何と戦っているのか得体の知れない感じが嫌にリアルで、これが現実で起きたことなのだと信じたくないような、でも刮目しなければという気持ちになる。

トム演じるミラー大尉は、「いつか故郷に帰ったとき、妻に誇れる任務をしたい」という思いで、戦争と向き合っていた。わたしはミラー大尉が最後に言い残す「無駄にするな」という言葉が頭から離れない。

幸運なことに、日本で戦争を体験せずに育ってきた自分のこの人生。

ばあちゃんがわたしに戦争の話をしているとき、隣でぐっすりと眠る姪っ子たちの頬を撫でる。

遠くの国では今も争いが続いている。

トムの映画を観れる環境にあるということ、ベッドでゆっくりと眠りにつけること、おいしいごはんが食べれること、友達や家族と笑い合えること。

まずはそれが本当にかけがえのない幸福なのだと噛み締めて生きるべきだ。それがきっと、「無駄にしない」ということなのかもしれない。

トムはわたしに平和の尊さも教えてくれる、平和のシンボルなのである。

余談。

わたしも現在視聴途中だが、『バンド・オブ・ブラザーズ』は、『プライベートライアン』チームが制作したHBO(Home Box Office)のドラマで、『プライベートライアン』の前後をより詳しく描写してあり、スピルバーグとトムが制作総指揮している。

トムが関わっているこの世の全てのものは必見必聴だ。

edit : Sayuri Otobe


シンガーソングライター  藤原さくら

1995年生まれ。福岡県出身。シンガーソングライター。天性のスモーキーな歌声は数ある女性シンガーの中でも類を見ず、聴く人の耳を引き寄せる。2024年4月、自身5枚目のアルバム『wood mood』では、サウンドプロデューサーにジャズドラマーである石若駿を迎え、原点回帰ともいえながら自身の今の音楽的ムードを昇華した作品を発表。今作を携えた全国ツアーでは初の東京NHKホール公演をソールドアウト。ミュージシャンのみならず、役者、ラジオDJ、ファッションと活動は多岐に亘る。inter fmレギュラー番組「HERE COMES THE MOON」(毎週日曜24時~25時)にてDJを担当。2025年3月より、デビュー10周年を迎える。

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