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東京から北信州へ。山のある暮らしを選んだきっかけ。写真と文:柴田奈穂子 (『tohe』店主) #1July 03, 2025
私は今、北信州にある黒姫(信濃町)という場所で暮らしている。
東京から越してきたのは、今から6年前のこと。
この地を知ったのは、東京に住んでいた頃からの友人夫婦が黒姫に移り住んだことをきっかけに、時折通うようになったことから。
北信五岳と言われる大きな山々がボンッボンッボンッと町を囲みながらも、すべてが独立している山のせいか、不思議と圧迫感はなく、むしろ抜け感が清々しい。
山間には野尻湖があり、山あり湖ありの自然豊かな町である。

また、四季がはっきりとしていてどの季節に訪れてもとても美しかった。
なかでも、印象に残っているのは冬。白からグレーのあらゆる濃淡を纏った雪は、町を覆い、音を吸収し、あたりは静けさに包まれる。白い息を吐き、雪道をぎゅっぎゅっと鳴らしながら歩く。その中にポンと灯りのついた家がなんとも暖かそうに映り、この場所に住みたいと思った。
黒姫での暮らしを思い描くようになってから、何度かの季節が巡り、ある時、友人の繋がりから素敵な住まいと出合うことができた。
40年前に建てられたとは思えないモダンな一軒家。もともとは物書きの作家さんが住まわれていたその家には大きな木々と青々とした緑が広がる庭があり、遠くには斑尾山が一望できる。
古い建物の雰囲気と、長年愛用してきた古家具がきっと馴染むだろうと、一目で気に入り「ここに住みたい」とすぐに移住を決めた。

次回からは、黒姫での日々の暮らしについて、あれこれ書いてみたいと思う。
『tohe』店主 柴田 奈穂子

しばた・なおこ/1981年生まれ東京都出身。古道具店で勤める傍ら独学でパン作りを始め、2012年に小さく販売活動を始める。2015年に『tohe(トーエ)』という屋号で独立。卸販売を中心に自家製天然酵母を用いた独自のスコーンを全国の取扱店へ届けている。2019年より東京から長野県北信州黒姫へ移住。