&EYES あの人が見つけたモノ、コト、ヒト。

日々菜弁 「キャベツと菜花と油揚の春饅」料理家・室田 HAAS 万央里 #4March 28, 2025

日々菜弁 その4料理家・室田 HAAS 万央里 #4/ キャベツと菜花と油揚の春饅
雪が溶けて岸辺まで行けるようになった近所の湖で散歩(私はこの後、ぬかるみに足を取られ盛大にすっころびビタビタになる)。

ここ数日、饅(まん)のことばかり考えている。

モッフリとかぶりつくと湯気と一緒に熱々の美味しさが口の中に溢れる、あれです。多分、“美味しい湯気選手権”で上位三位内には必ず入る、饅の湯気。

『&Premium』で台湾特集をやっているのを読んで、台湾に行きたくて堪らなくなった。

あれは、かれこれ娘が生まれる前だから7、8年前だったかしら、台湾に一人旅をして偶然見つけた小さな饅頭屋さんで食べた野菜饅、美味しかったな。確かキャベツと、何か緑のお野菜がミッチミチに皮に包まれていて、優しい味であっという間に道端で食べ終えた覚えがある。

台湾で食べた料理は、あともう一つ何か足したほうが味が決まる、の線から一歩引いたようなシンプルな味付けの料理が多かった。具は胡瓜だけの練りごまだれの和え麺とか、ほぼキャベツ、の野菜饅とか。

あれ? これ一味足りないのかな? を食べ進めていくと食べ終わりにはきっちりと満たされている。一口目からインパクトを狙うんじゃなくて、食べ終わりがじんわりしみじみと美味しい。明日もまた食べられるような料理。ストリートフードなのに、毎日の食卓の味だ。

日々菜弁 その4料理家・室田 HAAS 万央里 #4/ キャベツと菜花と油揚の春饅
湯気ほんわ〜。
日々菜弁 その4料理家・室田 HAAS 万央里 #4/ キャベツと菜花と油揚の春饅
蒸したて饅に抗えず味見。

この1か月、『&Premium.jp』で連載をさせていただいて、最後はきちんとしたお弁当じゃなくて変なお弁当でもいいかな、と思っていた。ほら、お弁当にカレーを持ってくる子とか、そうめんを持ってくる子とかいたじゃないですか。あれです。

と言うわけで本日は饅・オンリー弁当。

心ゆくまで饅が食べたい。(前回心ゆくまで焼売を食べたくせに)

台湾で食べたキャベツがたっぷり饅を目指して作ろうと思ったら、キャベツが我が家に無かった。町で唯一のスーパーまで車で20分。どうしようかと考えていたら、

「すいませーん」

と、玄関でお向かいのおじいちゃんの声がした。

これ、さっきもらった八朔のお礼、と大きなキャベツを抱えていた。色からしておじいちゃんの畑で採れて、大切に冬の間貯蔵していたキャベツだ。

えええそんなのいいのにー!と言いながらもう私の手はおじいちゃんの腕の中のキャベツに伸びている。おじいちゃんのうちのキャベツは柔らかく甘い。さっき福岡の叔母から送ってきた八朔をお裾分けをしたばかりなのだ。凄い。わらしべ長者と笠地蔵みたいなことになっている。

日々菜弁 その4料理家・室田 HAAS 万央里 #4/ キャベツと菜花と油揚の春饅
お向かいのおじいちゃんのキャベツ来た。
日々菜弁 その4料理家・室田 HAAS 万央里 #4/ キャベツと菜花と油揚の春饅
春らしい具の餡(キャベツは冬越したやつだけど)。

菜花と、玉葱、椎茸に油揚げを合わせて春らしい「野菜饅」を作ることに決めた。

皮はちょっと甘めのコンビニの肉饅風。具にピリッと黒胡椒を効かせると甘い皮と合っておいしい。でもこれ、控えめがおいしい台湾の饅っぽく無いかな。まあ、いいか。

日々菜弁 その4料理家・室田 HAAS 万央里 #4/ キャベツと菜花と油揚の春饅
発酵前
日々菜弁 その4料理家・室田 HAAS 万央里 #4/ キャベツと菜花と油揚の春饅
発酵後

皮を伸ばして包んでいると旦那がキッチンにやってきた。

「あ、饅だ。」と嬉しそう。

だよねえ、嬉しくなるよねえ、饅。

せいろを開けた時の湯気に顔がほころばない人はいない。多分。

日々菜弁 その4料理家・室田 HAAS 万央里 #4/ キャベツと菜花と油揚の春饅
頑張ってモリモリ乗せる。
日々菜弁 その4料理家・室田 HAAS 万央里 #4/ キャベツと菜花と油揚の春饅
ねじねじねじ。具で指が濡れると皮がくっつかなくなるので布巾などで指を拭きつつやると良い。
日々菜弁 その4料理家・室田 HAAS 万央里 #4/ キャベツと菜花と油揚の春饅
でけた。

これから春になり、蕗の薹も、筍もみんな饅の具になる。

今週卒園式を迎える娘。式の後の数日、小学校の入学式までは同じ保育園で希望保育だけど、お給食は出ないのでお弁当だ。

娘のお弁当も、ギュウギュウに饅だけ詰めたらどんな顔するだろう。そんなことを考えながらお昼にお弁当箱に入った饅を食べる。モッフリな湯気こそ無いけど皮と具が馴染んで、冷めた饅がおいしかったのは楽しい発見。

スープかなんか作ればよかったんだけど、あえて、ジャスト・饅。ジャスト・地味。

ここは台湾の裏道。なんて想像しながら目を閉じて食べた。ちょっとだけ、脳内で旅をした。

これから春、夏、秋、また冬が来てどんな「日々菜弁」を私はこの土地で作るんだろう。

その話はまたいつか。


今日の日々菜弁キャベツと菜花と油揚の春饅

一度作って冷凍しておけばいつでも楽しめるのが、饅。

折角皮から作るんだしぜひ8個くらいは作っておいて損はなしです。菜花を春菊やほうれん草に変えたり、硬めに茹でたインゲンや蓮根を入れたり、高菜漬けやキムチを入れたりなんなら前日のあまりのヒジキ煮を混ぜ込んだり、少しずつ具を変えて、も美味しいですよ。

日々菜弁 その4料理家・室田 HAAS 万央里 #4/ キャベツと菜花と油揚の春饅
自分史上最高に地味な弁当。ちなみにこの竹の弁当箱は私が子供の頃からお弁当箱として使っている物です。

    〈材料〉

    饅の皮
    A ミックス
    小麦粉 (今回使用したのは地粉。薄力粉でも良い)
    塩…ひとつまみ
    ベーキングパウダー…3g

    B ミックス
    ぬるま湯 (40度 お風呂のお湯くらいの温度)
    豆乳(または他の植物性のミルク)
    砂糖(出来れば精製されていない砂糖)…40g
    *白砂糖は甘みが強すぎるので30g
    *甘めの生地が苦手ならば10g
    癖のない植物油…大さじ1


    キャベツ…120g
    菜花…80g
    玉葱(新玉葱あれば)…100g
    干し椎茸…4g
    油揚げ…40g
    生姜…3g(正味)

    〈調味料〉
    塩(できれば自然塩。今回は塩だけで調味するので美味しい塩だと嬉しい)…小さじ2/3
    ごま油…小さじ2
    片栗粉…大さじ2
    黒胡椒…適量

    〈作り方〉

    1)A、Bミックスそれぞれの材料を混ぜ合わせる。

    2)AのミックスのボウルにBを少しずつ加えて混ぜる。ボウルの中で捏ねて生地がひとまとまりになったらボウルから出して台の上で、ツヤっと生地が滑らかになり、指で押すと押した後が戻ってくるようになるまで5分ほどぐいぐいと手の付け根を使ってこねる。

    3)ボウルにカバーをかけて温かいところで、2倍の大きさになるまで置いておく(こたつ、大活躍)。我が家にはラップがないのですが、なくても皿被せておけばそれで十分。

    4)発酵させている間に、餡を作る。

    5)玉葱、生姜は皮を剥き、全ての材料を微塵切りにして塩小さじ2/3 を加えて混ぜ、30分ほどおいたらボウルを傾けて上からギュッと抑えるようにして出た水分を軽く絞り、ごま油、片栗粉、黒胡椒をガリガリと引いて混ぜる。

    6)餡を包む。

    7)発酵して膨れた生地を拳で押して優しくガスを抜いたら、8等分してそれぞれ丸める。

    8)麺棒で直径10センチくらいに伸ばしたら(できれば中心を気持厚め、縁を薄めに)具を中心にのせる。

    *ひだをつけて包むのが難しかったら、まず上下の生地の端を中心に持ってきて合わせてつまみ、次に右と左の生地の端をつまむ。そして残りの生地の縁も中心に集めてつまめば大丈夫。要は蒸してる間に餡が飛び出さなければいいのです。生地に具の水分がつくと皮同士がくっつかなくなるので、濡れたら指をすぐに拭けるよう、布巾かなんかを用意しておくといい。

    9)クッキングシートの上に饅を乗せて、せいろにいれたら10分くらい置いて2次発酵させる。

    *最初にお湯を沸かしておき、火を止めてその上にせいろを乗せておくと温かいので発酵しやすい。

    10)せいろを鍋から外し、お湯を沸かして再びせいろを乗せて中強火くらいで15分。

    *食べる時は、和芥子、黒酢、醤油なんかをお好みで。
    *冷凍する時は蒸してから。温め直すときは凍ったまま蒸籠で蒸し直してください。12分くらいで大丈夫なはず。不安なら、金串をさしてみて中まで温まっていたらOKです!
    *お弁当に入れる時も、冷蔵または冷凍していた肉饅、一度ふんわり蒸し直してから入れてください。

edit : Sayuri Otobe


料理家 室田 HAAS 万央里

東京生まれ。17歳でNYに移り住んだ後、インドネシア、再び東京を経て2003年に渡仏。モード界で働いた後、ケータリング業に転身、料理教室や出張料理をパリで行う。2023年からは日本に移り住み、長野県にある『バラック食堂』での週2回の地元のオーガニック野菜を使ったプラントベースの食事づくり、料理教室などを行いながら新たな料理本の執筆中。唐揚げ好きな6歳の娘、時たまベジタリアンな夫と暮らしながら「みんなが喜ぶヴィーガン料理」をInstargram(@maorimurota)で発信している。2019年から2021年、朝日新聞デジタル&W で『パリの外国ごはんそのあとで。』を連載。著書に『パリの菜食生活』(青幻舎)や、『Tokyo Les recettes culte』、『Cuisine Japonaise maison』(ともにフランス、Marabout社)がある。

instagram.com/maorimurota

Pick Up 注目の記事

Latest Issue 最新号

Latest Issuepremium No. 137暮らしと装いの、スタイルサンプル。2025.03.19 — 960円