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日々菜弁 その1 料理家・室田 HAAS 万央里 #1March 07, 2025

朝、寝ぼけ眼でお米を研ぐ。
フランスから長野の田舎町に越してきて、お米の研ぎ方が変わった。お世話になっているお米農家さんが慈しむかのように優しく両手で米つぶを擦り合わせる研ぎ方を教えてくれてから、もっぱらこのやり方でしょりしょりしたら土鍋に入れて火にかける。
中火にかけてぷーっと蓋の穴から湯気が吹いてきたら、横目で見ながら2分くらい待って火を消して20分蒸らす。この時間さえも間に合わなくて10分になってしまうことも多いけど、こうして朝、晩の2回お米を炊く。

娘の保育園に持って行くお弁当箱にご飯を詰めて(おかずはお給食で出るけど、ご飯だけは家から持って行くシステム)、今日は出張に行く夫の分と、ついでに作った私のお弁当にもご飯を詰める。大人はちぎった海苔とお醤油を中に敷いて隠れ海苔弁。
おかずはお米を研ぎながら考える。
ここ数日の大雪で、街で唯一のスーパーにも道の駅にも行けなかったので冷蔵庫の中は品薄だ。ちなみに、冷蔵庫というのは野菜を凍らせない役目もするのだと、こちらに来て初めて知った。台所は零下まで下がるので,凍っては困るものを入れておく暖かい箱の役目をしてくれる。「暖蔵庫」とでも呼びたい。
食べそびれていた蓮根があった。
すりおろして揚げたら生姜醤油と黒胡椒、メープルシロップを絡めてコレをメインにしよう。揚げ物甘辛要員。
たしか、ひからびたエリンギもいたはず。
さつま芋と一緒に蒸して、檸檬、ごま油、塩、香菜で和えて、さっぱり要員。あとは、制作中の本の試作で作り続けているナッツとスパイスの調味料・デュカを、長野でよく見る雪菜に和えておひたしにしよう。スパイスとビタミンおよび箸休め要員。
去年の夏、初めて作ろうとした梅干し。干す時間を捻出できず、ただの梅酢漬けになっているがそれはそれでおいしいすなわち「梅干さず」を入れたら十分である。
旦那には卵焼きも奮発だ。私は自分一人で作って食べる時と仕事で作る料理は、基本はヴィーガン。レストランではできる限り動物性のものを頼まない。けれど、人の家に呼ばれて出してもらったものは喜んでなんでも食べるというゆるいヴィーガンであり、家族に作るお弁当は植物性の私のおかずに、卵焼きやらなんやらを家族のリクエストに答えて入れることにしている。
卵焼きを切っていると、「私もお弁当に入れるから一つちょうだい」と娘がやってきた。
お弁当はご飯しか入れちゃダメな決まりじゃないかと言うと、「ご飯の下に小さくして入れて、バレたら昨日のご飯の余りを入れたら間違って入っちゃったと言うから大丈夫」と悪い顔をして卵焼きをちぎり始めた。
チョコレートを盛大に口の周りにつけながら、「私、パパとチョコなんて食べてないよ」と言っていたのはほんの数ヶ月前なのに悪知恵のつき具合がすごい。うへえ、先生にバレて怒られればいい、とそのままにさせておく。
でもどうせ怒られないだろう。年少、年中、年長と合わせて10人ほどの保育園は、素朴な優しい園児ばかりで色んなことがふんわりとしている。雪が降るたびに雪かきが間に合わず、登園時間に毎回遅刻してしまう私が、もう既にダメダメな母である。先生にまず怒られるべきは私だ。
今日は東京に行く夫が娘を送って行った。
私は家で一人でお弁当。ストーブをつけても冷蔵庫の中くらいにしか温度が上がらない古民家の我が家の台所では、作るものが即座に冷え切るので冬に入って自分のためのお弁当を作る回数がめっきり減った。冷え切ったご飯を食べる気にならなかったのだ。ところが土鍋でご飯を炊くようになってから不思議と冷たいご飯もふっくらと柔らかいことに気づき、また作るようになった。
今日はふと思い立ち、お弁当の包みをお昼の少し前にコタツに入れておいた。
お味噌汁を作り(韮と油揚と椎茸)、鍋ごとこたつに持っていき、包みをこたつから取り出すとじんわりと温かい。
幼稚園の時、ストーブの周りにお弁当を置いて暖めていたのを思い出して嬉しくなった。お弁当が暖かいって不思議とワクワクする。
生姜の香りをまとった甘辛の蓮根はもちもちして海苔ご飯にぴったりだ。
蒸したキノコの旨味をたっぷり吸ったさつま芋に胡麻油の香りがおいしい。
雪菜の和物もキャラの濃い箸休めでいい。好き。そして「梅干さず」が抜群の安定感で全てをまとめている。最高だ。なんの食レポだ。一人雪に囲まれシンとした家で、自分を盛り上げるために頭の中で色々喋る。
駄目だ駄目だ、実在する人間とコミュニケーションを取らねば。
「お弁当どうだった?」
「あ、ごめん。つか、もう食べた?」
「食べたならおいしかった?」
「蓮根の団子みたいなやつが私的メインだったんだけどどう?」
矢継ぎ早にラインでメッセージを夫に送る。
「おいしかった。天気が良かったから外の公園で食べた。目の前を通った3人の女の人に、オーウオベントー!って言われた。早く自分でお米が作りたい。」
と簡潔にお返事と将来への展望をいただいた。ありがとうございます。
髭もじゃの外国人が公園で弁当の包みを開き、卵焼きを頬張っていたら私もそう言うと思う。
娘は今日、先生に怒られただろうか。
ごちそうさまでした。
今回は、蓮根団子の生姜醤油がらめのレシピをご紹介します。
甘辛の醤油ダレを絡めていますが、カレー粉をまぶしたり、塩だけでシンプルに、はたまたちょろっと醤油をつけて海苔を巻いてみたり、味付けには懐の深い団子です。
蓮根団子の生姜醤油がらめ
〈材料〉
蓮根団子(直径3センチくらいのお団子を4つ分)
蓮根…150g
片栗粉…大さじ2
塩…ひとつまみ
タレ
生姜…親指の先くらい(約4グラム)おろす
醤油…大さじ1
メープルシロップ…小さじ2または甜菜糖など甘味の柔らかい白砂糖でないもの小さじ1と1/2。黒砂糖でも美味しいです。もし白砂糖を使う場合は甘味が強いので小さじ1
黒胡椒…お好みでたっぷりと
*精製されていない砂糖、またはメープルシロップを使うとミネラル分や、うまみが料理を更においしくしてくれるので、私は使っています。もしご興味あれば白砂糖ではない甘味で料理をしてみたら、お!いつもよりコクが出た!って思っていただけるかも。
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〈作り方〉
1)皮を剥き、おろしがねでおろしたらザルにあげておく間にその他の材料を用意する。
2)全てのタレの材料をボウルに混ぜ合わせる。
3)すりおろした蓮根を両手でぎゅっと絞り、水気を切る。*四等分にしてやや平べったい円形に丸める。
4)片栗粉、塩を混ぜ入れ、170度に熱した油で中火で揚げる。かぶるくらいの油で揚げて、片面約2分、綺麗な揚げ色がついたらひっくり返し1分から2分。
5)揚げたてを2のボウルに入れ熱いうちにからめる。
*この時出た絞り汁、喉に良いのでお湯に溶かして葛湯のように飲んだり、片栗粉の代わりに料理や汁物にとろみをつけるのに使ったりしています。
edit : Sayuri Otobe
料理家 室田 HAAS 万央里
