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人は、あてどのみに生きるにあらず。 連載コラム : 小林和人#1February 07, 2025
「あてどない」という、近年ほとんど歌の中でしか目にすることがないこの言葉を再考してみたい。
「あてど」を辞書で引くと「当て所」とあり、文字通りの意味のほかには「めあて」や「心あたり」、「目的」などと記されている。となると、「あてどない」とは「目的や心あたりがない」というのが大方の意味で、少し膨らませて「期待できる確実性の拠り所が無い状態」くらいまで解釈できそうである。
「あてどない事業計画」とか「あてどない結婚生活」などという表現を聞いたことがないのは、言葉の意味を考えれば自ずと納得できる。
逆にいえば、意識的・無意識的のいかんに関わらず、我々は「あてど」を設定することよって安定して生きているといえそうだ。
しかしである。果たしてほんとうにそれだけで良いのだろうか。そんな想いがふと胸の内をよぎるのは、おそらく私だけではないはず。安心を与えてくれる「あてど」の存在が色濃くなりすぎると、今度は固定性が強まり、かえって窮屈さを感じることもあるかもしれない。
「人は、あてどのみに生きるにあらず」ということなのではないだろうか。
時には、行き先のわからないバスに乗り、降りたこともない停留所で降り、知らない街のはずれにあるひなびた中華料理屋のカウンターで、妙に盛りが多めな炒飯をかき込むのも良い。
或いは、旅先で見かけた看板に吸い寄せられて入ったスナックで、大きな字で「夢」と書かれたTシャツを着た歯の抜けた親父と束の間の交流を愉しむのもまた一興である。
かねてから、私はそのような非目的的な時間を持つことに憧れを抱いていた。そのような日を「野良犬の日」と呼び、時には店を従業員に任せ、スマホを玄関に置き(というかウソ、やっぱ持っていくかな)、夕方頃までぶらぶらしてみたいものである。
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edit : Sayuri Otobe
『Roundabout』『OUTBOUND』オーナー 小林 和人
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