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水草水槽の始め方。写真と文:タナカカツキ (マンガ家) #3February 16, 2026

日常の喧騒に疲れてくると、人は無意識に静かなものを求めるようです。そんなとき、ふと立ち寄った店の片隅で、小さなガラス瓶に入った水草とメダカのセットが目に入ることがあります。デスクの上で完結する小さな世界。

「これなら手軽に癒やされるかも?」

いや、その考えは捨てたほうが賢明です。

水草水槽のはじめかた。写真と文:タナカカツキ (マンガ家) #3

これから水草水槽を始めようという人に、私が声を大にして伝えたいのは、「小さい容器こそ茨の道である」という事実です。水量が少ないということは、それだけ環境が激変しやすいことを意味します。夏はすぐにお湯になり、冬は冷水になる。中の生き物にとってはたまったものではありませんし、水はすぐに濁り、ドブのような悪臭を放つことになります。癒やしを求めて手を出した結果、待っているのは小さな命の喪失と、腐敗した現実です。これでは本末転倒です。

初心者が選ぶべきは、部屋に置ける許容範囲の中で「できるだけ水量の多い水槽」一択です。アクアリウムにおいて水量は正義なのです。たっぷりの水さえあれば、多少エサをやりすぎようが、気温が乱高下しようが、その膨大な水量がクッションとなって衝撃を吸収してくれます。

ですが、これだけで済むわけではありません。ただ水を張ればいいわけではなく、水を浄化する濾過器、太陽の代わりとなる育成用ライト、光合成を促すための二酸化炭素添加器具も必要となります。

道具だけではありません。植物の育成法や魚の生態、バクテリアの働きといった自然科学の知識も求められます。何より、毎週のメンテナンスを継続できる時間と心の余裕、決して安くはない機材や電気代を支える経済力、さらには地震大国・日本において部屋に数百キロもの水の塊を置くというリスクまで引き受けなければなりません。

ここまで並べ立てると、もはや「手を出すな!」と叫びたくもなってきます。

ですが、すべてのハードルを乗り越えた先にしか存在しない、特別な境地があります。それは単なる「きれい」を超えた、うっとりするような陶酔の時間であり、部屋にいながらにして自然と溶け合うような体験です。

水草水槽のはじめかた。写真と文:タナカカツキ (マンガ家) #3

大変面倒であることを述べさせていただいた上で、それでも「始めよう」と思った方には朗報です。今は専門書などを紐解く必要はありません。水草水槽の始め方も、育成や管理方法も、AIがすべて答えてくれるでしょう。私などより遥かに詳しく、丁寧に。

週末になれば、ハサミを持って伸びすぎた草を切り、ガラスについたコケを黙々と削ぎ落とす。傍から見ればただの労働ですが、この「無心で手を動かす時間」こそが、熱を帯びた脳みそを冷やしてくれるのです。

水草水槽のはじめかた。写真と文:タナカカツキ (マンガ家) #3
伸びすぎた水草にハサミを入れる。視覚や思考ではなく、指先の感覚だけに集中するこの作業が、こわばった脳を解きほぐしていく。

骨の折れる作業ですが、不思議なことにどんどん疲れが取れてゆく感覚があり、意欲も充填されていきます。いわば、部屋にいながらにして森林浴をしているようなものです。ととのえられた透明な水の中を、魚が泳いでいます。彼らは私の仕事の成果も、世の中の事情も気にしません。ただ、そこに生きています。もし、この水槽がなければ、私の部屋はまた無機質な空間に戻ってしまうでしょう。自然の息吹のない部屋にはもう戻れません。

edit : Sayuri Otobe


漫画家 タナカカツキ

タナカカツキ
著書に『オッス!トン子ちゃん』(扶桑社)、『サ道』(講談社)など。カプセルトイ「コップのフチ子」の企画原案も手がける。水草水槽の入門書『水草水槽のせかい すばらしきインドア大自然』(リトル・モア)も。

x.com/ka2ki

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