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器がくれる、毎日の密かな楽しみ。写真と文:石原文子 (『工芸喜頓』店主) #3June 19, 2025

今回の執筆にあたり、いただいたお題の一つ、「日常において器は?」。

そう問われると、器は食器という“道具”であると同時に、料理を作る人にとっての密かな楽しみでもあるように思います。

お店でもお客さまとよく話をしますが、作る人がどれだけ想いと手間暇をかけて料理を作っても、家族というのは案外そのことに気づいてくれないものです。

それでも作り続けるには、作る人だけの小さな楽しみがどこかにないと、きっと続けられません。

器がくれる、毎日の密かな楽しみ。写真と文:石原文子 (『工芸喜頓』店主) #3

例えば、この写真のように、手作りのバナナケーキとぴったりのサイズの器と出合えた時は、ささやかですが嬉しくてニヤッとしてしまうのです。

ケーキの飴色と器の深い緑の色味のバランスも美しく、これは他の人には気づかれない密かな楽しみでしょう。

器がくれる、毎日の密かな楽しみ。写真と文:石原文子 (『工芸喜頓』店主) #3

こちらは作ってはいませんが(笑)、大好きな東京・九段下のおかき屋『さかぐち』のおかきの軽やかな模様が、フランスの18cmほどの器の抜け感とぴったり合って、こちらも一人嬉しくなってしまったのを覚えています。

器がくれる、毎日の密かな楽しみ。写真と文:石原文子 (『工芸喜頓』店主) #3

草餅の写真は、まるで歌舞伎の隈取のようで、器の上の“あるべき定位置”にすっと馴染んだ感じがありました。

私にとって日常における器は、こんな組み合わせの楽しみにある気がします。

器がくれる、毎日の密かな楽しみ。写真と文:石原文子 (『工芸喜頓』店主) #3

そして、『工芸喜頓』のご近所、東京・世田谷『よつは』で購入した抹茶キプフェルが、熊本のまゆみ窯の透明釉の小皿とぴったりだった時も密かに見つけた美しさで嬉しかったのを覚えています。

ではまた次回!

次は最終回です。


『工芸喜頓』店主 石原 文子

石原文子
いしはら・ふみこ/パリと東京を行き来するファッション業界での仕事を経て、夫婦で2011年に民藝を中心とした器のオンラインショップ『日々の暮らし』、2013年に東京・世田谷の上町に実店舗『工芸喜頓』をオープンする。

instagram.com/kogeikeaton

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