Lifestyle

〈オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー〉のヴィクトワール・ドゥ・タイヤックさん。自然に触れて感性を育む。調和と共にある生活様式。October 07, 2023

ヴィクトワール・ドゥ・タイヤックさんの家族が所有する、仏南西部ガスコーニュの館には森を有する敷地が広がる。幼い頃から休暇を過ごすこの場所で、緑あるエレガントな暮らしを教えてもらった。

館の前庭でビュッフェ形式の昼食を用意。大勢の家族が集まる食卓の準備ができると、鐘を鳴らして合図。ジャガイモの重ね焼きは祖父の時代からのレシピで、週に1 回は登場する人気の品。メインは鴨の胸肉とフレッシュな桃。
館の前庭でビュッフェ形式の昼食を用意。大勢の家族が集まる食卓の準備ができると、鐘を鳴らして合図。ジャガイモの重ね焼きは祖父の時代からのレシピで、週に1 回は登場する人気の品。メインは鴨の胸肉とフレッシュな桃。
館の前庭に咲きほこる蔓バラ。バラは彼女の母の好きな花で、17種が庭に咲いている。「日中と夜の寒暖差が激しい南西部では、石垣や壁のそばに苗を植えると夜も温度が下がらず、よく育ってくれます」
館の前庭に咲きほこる蔓バラ。バラは彼女の母の好きな花で、17種が庭に咲いている。「日中と夜の寒暖差が激しい南西部では、石垣や壁のそばに苗を植えると夜も温度が下がらず、よく育ってくれます」

エレガンスとは調和。 自然を理解し、共生する。

 南西フランス、ガスコーニュの緑豊かな並木道を抜けると、鉄格子の門の向こうに塔を備えた美しいシャトーが現れる。「90年前に祖父母が結婚した際に購入し、1970年代半ばに両親が受け継ぎました。一番古いのはキッチンと螺旋階段のある塔で、14世紀の建築。他は17世紀、19世紀に増築されました。幼い頃から家族と休暇を過ごし、思い出がたくさん詰まった場所です」と〈オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー〉のブランドディレクター、ヴィクトワール・ドゥ・タイヤックさんは語る。タイヤック家は18世紀から続く、由緒ある家柄だ。

「館のインテリアは’70年代から母が担当。先祖から受け継いだ家具は布を張り替えて大事に使い、カーテンや壁紙は定期的に新調します。それぞれテーマカラーが異なり、赤、ピンクなど、その配色を部屋の名前にしているんです」

 各部屋のインテリアは壮麗というよりシック。長い間受け継がれてきた、絵や家具が生きる優雅な空間だ。それに合わせ、庭の花をブーケにアレンジし飾ることは、大切な習慣だという。

「母はバラが好きで、庭に17種類栽培しています。ゲストのために花を選び、ブーケを作るのも彼女の役目。初夏はバラ、夏はダリアやコスモスなど、庭の花が大活躍します。採れない季節は週に2回、近くの朝市へ。日常的に花を飾ることは、母の姿から自然と学びました。また、テーブルセッティングやお皿、グラスの選び方も、家族から繰り返し教えられたこと」

 広大な森が広がる敷地の広さは約100ha。かつては美しく剪定されたフランス式庭園や菜園が各所にあった。「祖父母や両親の世代には、造形的なフランス式庭園を愛でることがエレガンスだったのでしょう。かつては庭師がいましたが、彼の引退を機に手入れをする人がいなくなり、1990年頃からしばらく、庭も菜園もイバラで覆われた状態が続いていたのです」

 2012年にはビュリーの共同創設者である夫のラムダンさんと、パリでガーデニングを開始。「友人宅の菜園で収穫した採れたての野菜の味に感動し、アパルトマンのバルコニーで育て始めましたが、鉢での野菜作りは難しくて。同時期に、ガスコーニュの敷地内にある湖の近くに、庭と菜園を蘇らせることにしたのです」

南西部の青空が眩しい早朝、塔の窓から顔を出したヴィクトワールさん。早起きをしてキッチンに下り、朝食用のケーキを焼くのが朝のルーティン。
南西部の青空が眩しい早朝、塔の窓から顔を出したヴィクトワールさん。早起きをしてキッチンに下り、朝食用のケーキを焼くのが朝のルーティン。
春から夏にかけては、館の前庭にあるクルミの木の下で、家族やゲストと昼食やディナーのひとときを楽しむことも。昔から招待客が多く、最近では妹の40歳記念パーティを開催。120人が集まり、賑やかに過ごした。
春から夏にかけては、館の前庭にあるクルミの木の下で、家族やゲストと昼食やディナーのひとときを楽しむことも。昔から招待客が多く、最近では妹の40歳記念パーティを開催。120人が集まり、賑やかに過ごした。
食堂の食器棚の中には、18世紀から続くフランス貴族・タイヤック家に代々伝わる銀食器が。
食堂の食器棚の中には、18世紀から続くフランス貴族・タイヤック家に代々伝わる銀食器が。
各所に一族の肖像画が飾られているが、こちらのプレイルームの壁には今の家族のポートレートが並ぶ。
各所に一族の肖像画が飾られているが、こちらのプレイルームの壁には今の家族のポートレートが並ぶ。
塔の窓より館のエントランスを眺めて。大きく育ったジャスミンは彼女が夫と結婚した2010年に植えられたという。
塔の窓より館のエントランスを眺めて。大きく育ったジャスミンは彼女が夫と結婚した2010年に植えられたという。
ダイニングルームのビュッフェテーブルに大きく生けられたバラは、庭から切ったばかりのもの。かぐわしい香りを放っていた。
ダイニングルームのビュッフェテーブルに大きく生けられたバラは、庭から切ったばかりのもの。かぐわしい香りを放っていた。

 2020年、コロナ禍での外出制限期間中は、家族でガスコーニュへ長期滞在をした。ジュエリーデザイナーの姉、マリー・エレーヌ・ドゥ・タイヤックさんと、力を合わせて庭造りに取り組んだ。「姉はジュエリーをデザインするように、庭をパースペクティブに見ることができて、フランス式庭園の父と呼ばれる天才造園家、アンドレ・ル・ノートルのようでした。私は彼女のアシスタントとして2〜3か月の期間で雑草を取り除き、広々とした庭を造りました。庭仕事では、雑草を抜いたり、土を整えたり、ひとつの作業に集中することで、まるで瞑想をしているような心地よさを感じられるのです」

 2021年には館から少し離れた小川のそばに家族のための菜園を造り、トマト、ナス、レタス、ルバーブ、ビーツなどの野菜、ハーブが大きく育つほどに。「大きい菜園ではありませんが、手入れは大変。どんなに頑張っても、天候のせいで何もできないということもありますが、それも人生。多くのことを学びます」

 緑を感じながら過ごすことで育まれた彼女の感覚は、〈オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー〉のディレクションにも表れている。

「新しい香りのコレクションは、トマトやルバーブ、ニンジンなど、野菜の香りがメイン。そこにフルーツやハーブをミックスした料理のようなレシピをラムダンが発案しました」

 今年はバラを40株植え、菜園近くに温室の設置、果樹や美しい花が咲く木々の植樹など、多くの計画が進行中。気候を理解しながら緑を育て、移ろう季節を感じ、一日を大切に生きること。それが緑とともにある暮らしにおける〝エレガンス〞ではないかとヴィクトワールさん。

「ガーデニングを始めてから五感が研ぎ澄まされました。特に嗅覚が鋭くなり、雨や土、朝の森の香りを楽しめるように。庭が元気で幸せそうだから、自分も幸せ、と感じる機会も増えました。もちろん思い通りにならないこともありますが、自然と気候を理解し、共生することが、美しく暮らすということなのでしょう」

塔の1 階にある厨房は、広々とした造りだ。床のタイルは14世紀の頃のオリジナル。
塔の1 階にある厨房は、広々とした造りだ。床のタイルは14世紀の頃のオリジナル。
庭に面する広いリビングルームは左右に二分され、鳥と花の壁紙が張られたこのスペースは、家具の色調をブルー系でまとめた〝夏サイド〞。反対側は暖炉があり、赤でまとめた〝冬サイド〞。「石造りの壁がとても厚いおかげで熱や寒さを遮断でき、夏は涼しく、冬は暖かく過ごせます」
庭に面する広いリビングルームは左右に二分され、鳥と花の壁紙が張られたこのスペースは、家具の色調をブルー系でまとめた〝夏サイド〞。反対側は暖炉があり、赤でまとめた〝冬サイド〞。「石造りの壁がとても厚いおかげで熱や寒さを遮断でき、夏は涼しく、冬は暖かく過ごせます」
シャトーのそばにある湖の夕暮れ。夏は岸辺にデッキチェアを並べて移りゆく空模様を眺めたり、日焼けや水浴を楽しんだりしている。
シャトーのそばにある湖の夕暮れ。夏は岸辺にデッキチェアを並べて移りゆく空模様を眺めたり、日焼けや水浴を楽しんだりしている。
館の前庭にて。毛足の長い白黒の犬はビル。他にも小型犬のプチ・チノーなど、住み込みのお手伝い夫妻が飼う犬たちが元気に走り回っていた。
館の前庭にて。毛足の長い白黒の犬はビル。他にも小型犬のプチ・チノーなど、住み込みのお手伝い夫妻が飼う犬たちが元気に走り回っていた。
塔の最上階にあるゲストルーム。ふだんは子どもたちが宿泊する。「壁紙は祖父の時代のもの。本棚には法律家だった祖先の蔵書が並んでいます」
塔の最上階にあるゲストルーム。ふだんは子どもたちが宿泊する。「壁紙は祖父の時代のもの。本棚には法律家だった祖先の蔵書が並んでいます」
ルバーブやビーツなど菜園の香りの新コレクション〝レ・ジャルダン・フランセ〞。写真は、6 種の香りがセットになった「ラ・シゼーヌ・パルフュメ」。
ルバーブやビーツなど菜園の香りの新コレクション〝レ・ジャルダン・フランセ〞。写真は、6 種の香りがセットになった「ラ・シゼーヌ・パルフュメ」。

PROFILE
Victoire de Taillac
セレクト店『コレット』のプレスを経て、姉のブランド〈マリーエレーヌドゥ タイヤック〉のPRを担当。夫のラムダン・トゥアミさんと19世紀の総合美容専門店『オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー』を復活させた。現在は『オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー』ブランドディレクター。

この記事は、『アンドプレミアム』NO.119「エレガンス、であること。」に掲載されたものです。

photo : Yusuke Kinaka text : Miyuki Kido

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