LIFESTYLE ベターライフな暮らしのこと。
イェンス・イェンセンさんと宮田・ヴィクトリア・紗枝さん。2人の静かな時間の過ごし方。_ MY PEACEFUL TIME 02December 14, 2021
慌ただしく過ごす日々の中で、自身と向き合う静かな時間をしっかり確保して、心身のバランスをとること。その大切さを考えた2021年11月19日発売の『&Premium』最新号「静かに過ごす時間が、必要です」。12人にクリエイターの皆さんを取材した「私の、静かな時間の過ごし方」から、著述家・編集者のイェンス・イェンセンさんと、〈キタン〉デザイナー、宮田・ヴィクトリア・紗枝さんの静かな時間について紹介します。
DIYでカスタムしたバンでキャンプをする。
ソーラーで発電した電気を使って、クーラーボックスが冷蔵庫代わり。ガスコンロも使えて、まさに〝モバイルハウス〞に改造したこのバン。バンカルチャーは欧米で親しまれてきたもので、家を持たない人がDIYでバンを改装して、暮らし始めたこともルーツのひとつ。僕も実際にやってみたら、本当にお金はそこまでかかりませんでした。自分で作ると愛着が湧きますね。
製作してまだ1年半ですが、一番遠くだと住まいのある鎌倉から16日間かけて宮崎まで行きました。伊勢までフェリーに乗って、そこから京都、岡山、広島、鹿児島......と各所に立ち寄りつつ、思うままに息子と2人旅。テントを準備しなくてもいいし、どこかで食材さえ手に入れば料理もできる。だから長旅でも細かいプランは必要ありませんでした。その自由さが本当に最高です。
バンを手に入れてから、人が少なくて自然豊かな場所に気軽にアクセスできるようになりました。徳島で「美濃田の淵キャンプ場」に寄ったときには、吉野川沿いの広大なフリーサイトに自分たちを入れてたった2組だけ。この車は登山のベースとしても使えるので、ハイキングにも行きやすくなりました。登山道の近くでこの車に前泊して翌朝から登ったり、山から下りたときにゆっくりコーヒーを淹れたり、楽しみ方も広がりましたね。
そういえば、時々オフィスとして使うこともありますよ。原稿の執筆やオンライン会議をするには静かで便利なんです。一時期は庭に停車して事務所さながらに過ごしました。あとWi‒Fiさえ付ければ完璧。すでに2台目のバンも製作中です
イェンス・イェンセン Jens Jensen
著述家・編集者
1977年デンマーク生まれ。デンマーク大使館勤務を経て、現在は英・Wallpaper*誌の編集や自著の執筆を行う傍ら、山道具ブランド〈山と道〉のオフィスも製作中。
古楽器のリュートを奏でる。
趣味で習っていたチェロの先生が音大で古楽を学び直していて、練習室に遊びに行ったときに、古楽器と出合いました。
バロック以前の中世・ルネサンス時代の古楽器は、劇場などの広い空間で聴こえるよう大きな音量を響かせる近現代の楽器と違い、スチール弦ではなく羊の腸で作られたガット弦が張られています。とても素朴な音色を奏でるので、まず、そこに惹かれました。手持ちのチェロをガット弦に替えて弾くようになり、それからさらに古楽器熱が高まって、たどり着いたのがこのリュート。ふっくら丸みを帯びたフォルムがかわいらしく、チェロよりも小型で軽くて持ちやすい。大きな音が出ないので、マンションの中でも気兼ねなく弾けるのも魅力のひとつです。朝出かける前や仕事から帰ってきた晩に好きな曲を演奏しています。リュートは楽譜も独特で、手の位置や押さえる弦を譜読みするだけで頭の体操にもなる。数字パズルを解いているような感じで無心になれるんです。
リュートの起源は中世のアラビアで生まれたアル・ウードという楽器だそうで、それが西に渡るとリュートやギターへ進化し、東に渡って琵琶の誕生につながったと聞きました。リュートひとつでそういう歴史に触れられるのもまたおもしろいんですよね。ピアノが出現するまでは、ヨーロッパの一般家庭で広く親しまれ、生活のそばにあった楽器だったそうです。当時の人がどのようにこの温かな音に癒やされ、楽しんでいたのか。繊細な旋律を奏でていると遠い昔の風景を手繰り寄せるような感覚があり、心が穏やかになります。
宮田・ヴィクトリア・紗枝 Sae V. Miyata
〈キタン〉デザイナー
1990年アメリカ・シアトル生まれ。大学卒業後、様々なファッションの現場で経験を積み、2021年より、ユニセックスブランド〈キタン〉をスタート。
photo : Shinsaku Yasujima(Jens Jensen), Shinnosuke Yoshimori(Sae V. Miyata) text : Mariko Uramoto(Sae V. Miyata)