TALK あの人が語るベターライフ。
シンガーソングライター・崎山蒼志さんが日々、考えていること。初のエッセイ集『ふと、新世界と繋がって』についてインタビュー。January 16, 2025
透き通るような歌声で、繊細な楽曲を歌う崎山蒼志さん。自身初となる著書『ふと、新世界と繋がって』が、1月16日に刊行された。新潮社の雑誌「波」での2年間の連載をまとめた本書は、リアルとフィクションが入り交じるエッセイ集。「現実と空想の境目がないものを書きたくて」と話す崎山さんに、この本に込めた想いや、生活の中で大切にしているモノやコトなど話を聞いてみた。
扉の向こうに広がっている世界を想像する。
「小さい頃から、あの扉を開けたら何があるんだろう、とか、この道はどこに繋がっているんだろう、と想像するのが好き。はじめてエッセイを書くことになったとき、現実で遭遇した出来事に、頭の中の空想が混ざったものにしたいなと思いました。毎回、結末を決めずに書き始めていたので、自分でも予想していなかった着地になることもあって、楽しかったです」
ワイヤレスイヤホンを失くした日やメガネを新調した日など、日常の些細な出来事を独自の視点で切り取る崎山さん。印象的なのは、幼少期の思い出に関するエピソードが多いこと。
「子どもが持っている純粋な感覚に対する憧れがあります。小学生くらいの子が書いた詩をまとめた、灰谷健次郎さんの『たいようのおなら』(のら書店)という本が大好きで、そういった無垢なものによく反応するんです。自分にとって創作の原点があるのかな」
上京してからの2年間の記録。
「連載が始まったのが、地元の静岡から東京に出てきたばかりの時期。なので、はじめて降りた駅や街の話も多いですね。ワンルームの家で制作するようになり、煮詰まったときはよく散歩に出かけます。目に入った看板や風景からアイデアが思いついたりすることもありました」
上京したばかりの頃はコロナの影響もあったが、徐々に東京の友人も増え、いろいろなことに関心が広がっているとのこと。
「アートに興味があって、ずっと好きなのは、染色した布に絵を描く菊池虎十(きくちたけと)さん。僕のツアーのビジュアルをお願いしたこともあるのですが、色合いがとても素敵。これってどれくらいの時間なんだろうっていう空の色とか。最近気になっているのは、廣島新吉さん。パンクな気持ちを感じます」
制作の合間に癒やしてくれる存在。
今回、崎山さんが長く愛用しているものとして、エッセイ内にも登場するぬいぐるみを持ってきてくれた。
「家に沢山ある中から、いくつか持ってきました。一番の古株はタヌタヌで、3歳の頃からの付き合い。大事なライブや海外に行くときに連れて行く、お守りのような存在ですね。この前はトム・ヨークのライブも一緒に観ました。普段パソコンの横に置いたりしていて、作業の合間に目に入ると癒やされるんです」
本の中でも触れられているが、周りのものや人から影響を受けながら生きていると感じるそう。
「こっちに出てきてから沢山の人と知り合って、仲良い友達もできて、でも人と会うのに疲れて一人になったりする。その繰り返しですね」
等身大の自分を飾らずに語ってくれた崎山さん。「こっちはこんな感じだけど、そっちはどうですか?みたいな気持ちで書いているので、気軽に読んでもらえたら」と話す本書は、小さな物語から読者を思いも寄らない景色に連れて行ってくれる。
Book Information『ふと、新世界と繋がって』
著者:崎山蒼志
定価:¥1,870
発行:新潮社
For Better Life
「ベターライフのために大切にしていることはありますか?」
&Premiumが大切にしている「Better Life(より良き日々)」。それを叶えるためのヒントを崎山さんに聞いてみました。
「創作物に触れる」:人が作ったものを通して、その人の視点を見ることが好き。最近はよく、買う本を決めずに紀伊國屋書店に行きます。店内を一周して、気になったものを手にとってみる。店を出て、歩いているときに充実した気持ちになりますね。
photo : Aya Yasuda