MOVIE 私の好きな、あの映画。
極私的・偏愛映画論『ナイト・オン・ザ・プラネット』選・文 / 川上薫(スタイリスト) / September 25, 2020
This Month Themeもの選び、服選びに影響を受けた。
洋服や小物、会話劇から、個性豊かな人々の魅力を楽しむ。
世界各所(LA、NY、パリ、ローマ、ヘルシンキ)で働くタクシードライバーたちの一夜の体験をオムニバス風に5編綴った作品。初めて観たのは18歳の時。何か特別な事が起こるわけではないタクシードライバーと乗客との会話劇の中に、ふと心に残る言葉や、エピソードが織り混ざっていて、その後も節目節目に観ている。映画は観る時代によって感じ方がいつも異なり、特にこの作品は国や土地によって服装、人の性格の違いも丁寧に表現されていて、何度観ても面白い。
1話目はLA。若い女性ドライバーとマダムの会話。ウィノナ・ライダーの可愛さに一目惚れだった。ジーナ・ローランズ演じるマダムの服装は、品のあるパールがついたバイカラーのセットアップ、スクエアのショルダーバッグ、アクセサリー、トランクまでも彼女の美意識を表している。それに比べ、タクシードライバーの彼女の服装は着飾ることなく、何年も着慣れていて、とても肌に馴染んでいる。好きな仕事をして、好きな格好をして、タバコを愛す(笑)。当時、彼女のくたびれたシャツと鍵がついたチェーンが欲しくなったのを思い出す。二人の女性は仕事に対して”満ちている”ところが素敵だ。年上の女性をちょっとユーモラスに皮肉る“Yes, ma’am”というくだりが最高。
2話目はNY。寒空の中なかなかタクシーがつかまらない黒人男性。そこに東ドイツから来たばかりのお爺さんドライバーが登場。ドライバーなのに運転が出来ない(笑)。 黒人男性が着ているデザインが入ったムートンコートにロシアンハット、足元のスニーカーには赤い紐をプラスして履いちゃうところに90年代のムードと彼の明るい人柄が表れている。マンハッタンからブルックリンまでの道中の会話劇がとても面白く、ドライバーと同じような帽子をかぶっているのに、「俺のは最先端」と言い張るくだりとかを観ていると気持ちがほっこりする。彼が降りた後、お爺さんが確実にマンハッタンより遠のいていくのを感じ、不安を残して終わる。
3話目のパリは、アフリカ系の男性ドライバーとベアトリス・ダル演じる盲目のフランス人の令嬢。彼女のレイヤードはとても品が良い。中に着たフラワープリントのドレスが気になる。今までも盲目ということで気を遣われすぎたり、お情けな言葉をかけられたりしてきていたのだろう。まるで見えているかのように、全てお見通しの彼女。ものが見えていない彼女の感覚よりも、見えている彼の方が色々な事に戸惑い、迷っているように感じる。見えることが全てではないと教えてもらった。
4話目の「ローマ」と5話目の「ヘルシンキ」はここでは割愛。この2話もとても面白いエピソード。特に5話目のおじさん4人の物語はとても愛おしい。
ジム・ジャームッシュの作品に登場する人物作りはとても入念だと思う。一人一人の洋服や小物使いなどから、ふだんの生活スタイルまでも想像が膨らむ。 (無意識に考えさせられている) とにかく一言でいえばお洒落で観ていてヒントがある。特に人物像を創造し、スタイリングを組むような仕事をさせてもらう上で参考になる点が多いように思う。そして特に着飾るではなく自分らしくいることも肯定してくれる。