INTERIOR 部屋を整えて、心地よく住まうために。
スウェーデン・ストックホルムに暮らすガラス作家・山野アンダーソン陽子さんの、美しいものに囲まれた住まい。June 13, 2022
日々使う道具や家具、日用品、日常をともにする部屋を飾るもの。それらを美しいもので揃え、心豊かな時間を過ごしている人々を訪ねた、2022年5月発売の特集「家で使う、飾る、美しいもの」より、スウェーデン・ストックホルムに暮らす、ガラス作家・山野アンダーソン陽子さんの住まいをご紹介します。
生活の中で使うものは、機能してこそ美しいものになる。
スウェーデンの伝統ある手吹きガラスで、美しい作品を生み出すガラス作家の山野アンダーソン陽子さん。一点もののアートピースよりもマスプロデュースされたクラフトを作りたいと20代でスウェーデンに渡り、ガラス工房で技術を磨いた。現在は、熟練の技を駆使して、カップやピッチャー、ボウルなど、生活に寄り添う作品を中心に手がけている。
夫と息子と3 人で暮らす山野さんの住まいは1952年に建てられたストックホルム郊外の集合住宅。国立公園のそばにある建物の窓からは、緑豊かな森を望める。この家は、当時"ファンクショナリズム(機能主義)"に基づいて考案された機能性重視の建築。もちろん’50年代から生活様式は変わっているので洗濯機を設置するスペースを設けたり、劣化した水回りを修繕したりと現代生活に合わせてアップデートもしているが、床や壁、基本の構造はほぼそのままで、70年経った今も変わらない使い勝手の良さがあるという。
「当時の作りは本当にしっかりしています。スウェーデンでもすべてを新しくするリノベーションスタイルもありますが、私は昔からあるオリジナルをなるべく生かし、使えるものは壊さずに残したいんです」
無駄を削いだシンプルな作りの部屋でありながら、山野さんの暮らしの空間に温かみが感じられるのは、人の手を介したアートやオブジェが至る所に置かれているから。
「飾ることは好きですが、気合を入れてディスプレイしたものはなくて。例えば壁に貼ってあるのは私的な思い出ばかり。日本でカメラマンをしている弟の写真、その弟が中学生のときに描いたイラスト。息子が描いた自画像、祖母の家で飼っていた犬の写真、友達からもらった葉書……」
リビングにあるアンティークのキャビネットもまた個人的に思い入れのあるものだけを置いている。
「昔の工場のプレスガラスやドイツのカットグラス。自分のファーストサンプル、息子が初めてくれたガーベラの花の残り、シチリアで見つけたシーグラス、義母が作った付け襟など、他人から見たらなんてことな
いものですが自分にとってはすべてに物語がある。それらが創作のアイデアソースになっています」
一方で、毎日使う日用品は感覚的な思いだけでは選ぶことはない。
「作業中に飲むカップは冷めにくくしたいから口を小さく、細長いものを選ぶ。木のテーブルにシミをつけたくないからファブリックを掛ける、それも季節ごとに、といった感じで自分がどんな目的で求めているかを
考えて長く使えるものを選びます」
造形的に美しさを感じるものであっても飾るものと使うものでは選ぶ視点が違うと山野さん。
「生活の中で使うものは機能性を何よりも考えます。作り手だから余計にそう考えてしまうのかもしれませんが。使うものは見た目だけで取り入れるのではなく、"使って機能するから美しい" ものでありたい。まず行為があること。私はいつもその順番を大事にしています」
山野アンダーソン陽子
ガラス作家
1978年生まれ。スウェーデンを拠点に、世界各国で展示会を行う。今年4月には写真家の長島有里枝との共著で『ははとははの往復書簡』(晶文社)を刊行。
photo : Gustav Karlsson Frost edit & text : Chizuru Atsuta