LIFESTYLE ベターライフな暮らしのこと。
『TRUCK』オーナー・唐津裕美さんの暮らし方とセンス。「好きなことには、時間と手間を惜しまない」April 11, 2022
2022年3月19日発売の『&Premium』の特集は「センスがいいって、どういうことですか
」。さりげなく素敵で、背伸びをしなくても洗練されている。漠然としているけれど確かに何かが違う“センスがいい”ということについて、ライフスタイルからファッション、カルチャーまで、探ってみた一冊です。ここでは、『TRUCK』オーナー・唐津裕美さんのセンスのいい暮らし方を、「大切な場所」や「毎日の習慣」からひもときます。
1.家の中の大切な場所。 Comfortable Room
リビングで犬や猫とともに寛ぐ。それも心地いい時間。こだわりポイントは、キッチンとひとつながりの広い空間にしたこと。大きな窓から望める庭には、落葉樹を中心に、好きな樹々を時間をかけて探して植えた。ここだけでなく、家のすべての窓から樹が見えるように設計されている。
2.毎日の習慣 。 Daily Routine
店には毎日、顔を出す。習慣としているのはディスプレイに手を加えること。 「なんでも自分の目の届く範囲でやりたくて。家具の卸などお話もたくさんいただくのですが、すべてお断りしています。目がいかないと、どうしてもぶれてしまう。それは『TRUCK』ではなくなってしまうと思うんです」
3.大好きなものたち 。 Important Things
「好きなものは、物心がついた頃からまったく変わっていません」と、唐津さん。 佇まいも含めて愛おしいブサイクなクマ。革のシステム手帳カバーは、就職して初めて買ったものを30年以上、使っている。小学生の頃から趣味が一貫していることがわかる、手鏡とポーチ。ギターは最近購入したもの。
好きなことには、時間と手間を惜しまない。
「好きなものは人それぞれ。なので、センスは良い悪いではないし、正解もない。私は自分が取り立ててセンスがいいとは思っていません。ただ、好きなものははっきりしている。それが独自のスタイルをつくっているんだと思います」 と、唐津裕美さん。
パートナーの黄瀬徳彦さんと、大阪で家具店やカフェを展開する『トラック』を営む二人の自宅は、店の隣。行き止まりになった約640坪の敷地に店とカフェ、工場、アトリエ、倉庫、自宅が並び、周囲は学校に囲まれている。駅からも近く、理想的な立地だが、ここを見つけるまで4〜5年かかったという。もとはタクシー会社の土地で、その建物や駐車場を壊すところから始まり、時間をかけてプランを考え、新たに心地いいと思う空間を一から作った。
そういった時間と手間を惜しまないのも、唐津さん自身や、作るもののセンスを形成する要素。 「建てるにあたっては、膨大な時間と労力がかかっています。でも、自分たちが住むところを自分たちで好きに作っているわけだから、 楽しいし、面白い。それを時間がかかるからこの程度でいいか、と投げ出す選択肢はなかったですね。 妥協するくらいだったら初めから作る意味がないと思うんです。そして、いいものを作るには、時間がかかって当然」
それは、彼女たちのものづくりのベースにもなっている。
「これが格好いい、これが好きと いうものだけを作っているし、売っています。流行しているから、売れ筋だからと置いてあるものはなく、創業して25年、自分たちの〝好き〞だけでやってきました」
だから、家もアトリエも店も、同じような空間になる。
「家が100%で、店が50%なんてあり得ない。どちらも100%だから、同じようになるのは当たり前。暮らし方のセンスって、自分たちの心地よい場所が作れているかどうかだと思います」
自宅で使うものも店で売るものも一緒。家具も試作品を家に持ち込み、実際の生活の中で使って改良を重ねていく。リビングで唐津さんが座っている「FK SOFA」も商品化するまでに1年かかった。
習慣にしているのは、店のディスプレイを変えること。毎日、店に行ってその日の気分で手を加え る。天気や光の入り具合で心地い いバランスも変わるので、欠かせない行為なのだ。
「でも、スタイリングの勉強をしたことはないし、法則も知らない。これがお気に入りだから目立つところに置いてみようなど、直感です。どう並べたいかより、どう見たいかで決めています」
そして、好みは物心がついた頃 からぶれることなく一貫している。大好きなものとして見せてくれたべっ甲風の手鏡は小学生、布製ポーチは中学生のときに買ったもの。中学生のときに自分で選んだ学習机も、スチール製のグレーの事務机だったという。
「子どもの頃から好みははっきりしていました。ポーチのように長く使っているものも多くて、店にあったら今でも買うなあ、というものばかり。不思議ですよね」
唐津裕美 『TRUCK』オーナー
Hiromi Karatsu
大阪生まれ。大阪芸術大学を卒業後、デザイン会社勤務を経てイラストレータ ーに。1997年に黄瀬徳彦さんとともに『TRUCK』をオープン。2009年、建物、 樹々、レンガ塀などすべてを一から考えた、大阪市旭区の現在の場所に移転。
https://www.truck-furniture.co.jp/
photo : Yumiko Miyahama edit & text : Wakako Miyake