FOOD 食の楽しみ。
とっておきのパン職人が焼く新定番。 パン好きが集う街・京都February 28, 2023
2023年2月20日発売の『&Premium』の特集は、「ひとりでも、京都」。ひとりでも楽しめる。ひとりだからさらに楽しい。そんな情報を集めた、本誌3年ぶりとなる京都特集です。伝統や習慣を守りながら、新しいカルチャーとも共存し、訪れる度に新たな発見のある街の魅力をローカルのガイドに聞いた企画「ひとり、京都を巡りたくなる10のこと」では、パンの新旧の名店をピックアップ。ここでは、ギャラリー『ア リトルプレイス』オーナーの宇佐見紀子さんがおすすめする新定番の3軒を紹介します。定番の3軒を紹介した記事はこちら。
とっておきのパン職人が焼く新定番。
1.エンタ
YENTA__吉田
店主の吉原真由子さんが〝粉と塩と水だけなのに、いろんな姿に変わる〞パン作りに魅了されたのは、10年ほど前。以来、ひとりで考え、悩みながら、ひたすらパンを焼き続け、1 年前から独自のレシピによるこだわり素材のパンを販売。「どのパンも、クラストの焼きが強く、一見重そうなのに軽くて、いくらでも食べられます」▷京都市左京区吉田上大路町27‒1 Instagram@yenta.breadで問い合わせの後、LINEで予約。営業日もInstagramで告知。
2.喫茶とパン do.
Kissatopan do_北白川
東京のブーランジュリーやメーカーでパン作りを学び、2017年にベーカリーカフェを構えた奥村大祐さん。3 年ほど前から体のことを考えた、食事に合うハード系に力を注ぐ。なかでも目を引くのが修道院のレシピを参考に考案したというモラセス(砂糖を精製するときに出る副産物の糖蜜)の黒パン。「生地の甘味と香ばしさがいい」▷京都市左京区北白川東久保田町10‒1 第二白川ハイツ1F ☎075‒746‒2301 8:00~16:00 月休 喫茶にはモーニングセットも。
3.ジェルメ
Germer_浄土寺
パイ生地を仕込んだかと思えば、ブイヨンをとる。かと思えば、フランスでのパティシエ経験を生かしてお菓子も作る。ビストロをやりながらパンを焼くのはさぞ大変かと思いきや、だからおいしいものができると、店主の岡本幸一さん。パンは粉や酵母を多彩に使い分け、「ヴィエノワズリーは、層がとてもきれいにできています」。▷京都市左京区浄土寺西田町3 銀閣寺ハウス120 ☎075‒746‒281512:00~なくなり次第終了 ビストロ18:00~21:00LO 月火休
Walk about 10 Things_BREADS
新店も老舗もチェーン店も、
みんなで支えるパン文化。
かれこれ30年近く、衣食住のバイヤーとして、パリで暮らしてきた宇佐見紀子さん。そのうえ、夫はフランス人である。パンにはさぞ思い入れが……と思いきや、それだけにあらず。パリに本店を置くブーランジュリーの東京出店の際には、立ち上げから関わることになり、「そのときには、それこそパリ中のパン屋さんを食べ歩きましたし、出店の際には、レシピ開発から携わりました」という、いわゆるパン好きでは終わらない、まさに目利き。そんな宇佐見さんが、バゲットやクロワッサンの故郷を離れ、パンの消費量が多いことで知られる京都市に移り住んで感じたのは、裾野の広さだ。
「ハード系のパンがおいしい新しい店がどんどんできる一方で、『まるき製パン所』や『大正製パン所』といった昔ながらのパン屋さんの人気も健在。さらに『志津屋』や『進々堂』など、地元に根付いたチェーン店も頑張っている。いろいろなタイプの店がともにパン文化を支えているのが、京都なのだと思います。ですから、この街のパンの底力を実感するなら、ロングセラーも新しいパンも、どちらも試してみるといいですね。また、誰もが知っているような、親しみやすいパンが好きな地元の方が多いからでしょう、自分たちが作りたいパンを置くというより、そうした地元の人たちに寄り添った品揃えをしているお店が多いところも、好感が持てます」
なかでも京都らしいなぁと感心しきりなのが『志津屋』のロングセラー「京かるね」だ。「パンとオニオンとハムだけという、究極のシンプルさ。こんなパン、東京ではなかなか見かけないですよね。こういうシンプルなパンが生まれることもそうですし、それを愛する京都人も、やるなぁという感じ。京都の方言で、ちょっと小腹が減ったときの軽い食べ物という意味の、〝むしやしない〞という言葉がありますが、これはまさにそう。『まるき製パン所』のハムロールも同じですが、そんな〝むしやしない〞がいくつもあるのも、特徴だと思います」
パン充実の街ゆえ、住んでまだ1年にも満たないが、大好きなハード系でお気に入りの店も、次々と見つかっている。住まいの近くにある『喫茶とパンdo.』もそのひとつ。
「ふらっと入ってみたら、サワードゥにパン・ド・カンパーニュ、モラセスとハチミツの黒パンなど、食事パンがどれもおいしくて。なんの前情報もなく入った店で、ここまでの食事パンに出合えるのがすごいなぁ、と。満足してしまって、ほかのパン屋さんを探さなくてもいいわ、と思ってしまったくらい」
が、それでも、おいしいパンに出合ってしまうのが、激戦地たるゆえん。人づてに入手したパンに、またまた心を奪われた。それが、完全予約制の『エンタ』だ。
「パンの食感や味、お店の雰囲気、すべてが好み。何を食べてもおいしい。こちらにもパン・ド・カンパーニュがあるんですが、『喫茶とパンdo.』と同じ、天然酵母の長期熟成なのに、食べるとまったく違う。そういうところにも京都のクオリティの高さを感じます」
クロワッサンやパン・オ・ショコラといったヴィエノワズリーもまた、しかり。
「独特のポリシーの持ち主で、レストランをやりながら、パンも焼いているのが、『ジェルメ』のシェフです。手間がかかるので、本場フランスでも、ヴィエノワズリーを作る職人が少なくなっているというのに、料理を作りながら、美しいクロワッサンやパン・オ・ショコラを焼いている。しかも、バゲットやブリオッシュまで作っていて、バゲットはほかのレストランにも卸しているのですから、京都の職人さん、恐るべしです」
宇佐見紀子 『ア リトルプレイス』オーナー
昨年4月に京都へ移住。8月に、歴史ある町家に、庭師の成井大甫さんとタッグを組み、〝美を掬う〞をテーマにしたギャラリーをオープン。宇佐見さんが苧麻(ちょま)で作った服もディスプレイしている。▽京都市中京区押小路通御幸町西入ル橘町610 営業日はInstagram@_a_little_place_にて。
photo : Kiyoshi Nishioka text : Yuko Saito