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ロングセラーの惣菜パンがある定番店。 パン好きが集う街・京都。February 27, 2023

2023年2月20日発売の『&Premium』の特集は、「ひとりでも、京都」。ひとりでも楽しめる。ひとりだからさらに楽しい。そんな情報を集めた、本誌3年ぶりとなる京都特集です。伝統や習慣を守りながら、新しいカルチャーとも共存し、訪れる度に新たな発見のある街の魅力をローカルのガイドに聞いた企画「ひとり、京都を巡りたくなる10のこと」では、パンの新旧の名店をピックアップ。ここでは、ギャラリー『ア リトルプレイス』オーナーの宇佐見紀子さんがおすすめする定番の3軒を紹介します。新定番の3軒を紹介した記事はこちら。

ロングセラーの惣菜パンがある定番店。

まるき製パン所
昭和22年創業時から続くハムロール¥190は一番人気。当初は、現在のポークではなく、魚肉のハムを挟んでいたのだとか。
まるき製パン所
昭和22年創業時から続くハムロール¥190は一番人気。当初は、現在のポークではなく、魚肉のハムを挟んでいたのだとか。
まるき製パン所
奥で、スタッフが手際よく作ったパンが次々と店先に並ぶ。
まるき製パン所
奥で、スタッフが手際よく作ったパンが次々と店先に並ぶ。

1.まるき製パン所
Maruki Seipanjo__四条大宮

食パンで作るフレンチトースト¥160。明太トーストやピザトーストもある。
食パンで作るフレンチトースト¥160。明太トーストやピザトーストもある。
人のいない店先は一瞬で、すぐに行列ができてしまう。が、10人近いスタッフが行ったり来たりしながら、製造も接客もテキパキとこなしていくから、待ち時間もあっという間だ。
人のいない店先は一瞬で、すぐに行列ができてしまう。が、10人近いスタッフが行ったり来たりしながら、製造も接客もテキパキとこなしていくから、待ち時間もあっという間だ。

アイテムはいろいろ変わっても、パンの味は昭和22年の創業時のままと、2 代目の木元廣司さん。すべて厨房で作るという惣菜をサンドする人気のコッペパンは、昔から余計なものは入れず、細身でしなるほど柔らかい生地に焼く。「ここのハムロールで大人になったという生粋の京都マダムに教えてもらい、ファンになりました」▷京都市下京区松原通猪熊西入北門前町740 ☎075‒821‒9683 6:30~20:00 日祝7:00~14:00 月休(祝日の場合営業)

2.志津屋 祇園店
Sizuya Gionten_祇園

京かるね¥230。トースターで軽く温めるとさらにおいしくなるそう。現在は、ペッパーやデニッシュなど、6 種ほどのカルネが揃う。パンがトーストしてある、ふんわりオムレツサンドもおすすめ。
京かるね¥230。トースターで軽く温めるとさらにおいしくなるそう。現在は、ペッパーやデニッシュなど、6 種ほどのカルネが揃う。パンがトーストしてある、ふんわりオムレツサンドもおすすめ。
祇園店は、八坂神社の階段下に。イートイン席もある。
祇園店は、八坂神社の階段下に。イートイン席もある。

京都人が愛するベーカリーチェーン。名物の「京かるね」は、欧州にパンの視察に出向いた初代が、ドイツでカイザーゼンメルに出合い、昭和50年頃に誕生。マーガリン、ボンレスハム、オニオンスライスのシンプルな組み合わせは、「何かを足してもダメで、野菜はオニオン以外あり得ないと思わせる完成度」。元祖ビーフカツサンドの陰に隠れて目立たない存在だったが、近年ブレイクした。▷京都市東山区祇園町北側291 ☎075‒532‒2052 8:00~20:00 無休

3.大正製パン所
Taisho Seipansho_千本今出川

3 日がかりで作るというカレーパン¥180。これは中辛で、ほかに甘口、焼き、ヒレカツカレーの4 種。クリームパンやコッペパンサンドなどアイテムが豊富。
3 日がかりで作るというカレーパン¥180。これは中辛で、ほかに甘口、焼き、ヒレカツカレーの4 種。クリームパンやコッペパンサンドなどアイテムが豊富。
京都府庁のそばで3 年。その後、大正11年からこの場所に。店内に置かれた木製の番重がいい。
京都府庁のそばで3 年。その後、大正11年からこの場所に。店内に置かれた木製の番重がいい。

西陣で100年。その昔は機織り職人のおやつとしてパンが大人気だったという老舗。一番人気のカレーパンは、いまも現役でカレーのフィリングを作る3 代目の女将、河戸晴美さんが40年ほど前に発案した。カレーを生地で包んで寝かせ、一度焼いてから、揚げているので、「サクッと揚がっていて、油っぽくなくて食べやすいです」。▷京都市上京区今出川通千本東入般舟院前町136 ☎075‒441‒3888 8:30~18:00 月日祝休 40~50種類ぐらいのパンが並ぶ。

Walk about 10 Things_BREADS

新店も老舗もチェーン店も、
みんなで支えるパン文化。

 かれこれ30年近く、衣食住のバイヤーとして、パリで暮らしてきた宇佐見紀子さん。そのうえ、夫はフランス人である。パンにはさぞ思い入れが……と思いきや、それだけにあらず。パリに本店を置くブーランジュリーの東京出店の際には、立ち上げから関わることになり、「そのときには、それこそパリ中のパン屋さんを食べ歩きましたし、出店の際には、レシピ開発から携わりました」という、いわゆるパン好きでは終わらない、まさに目利き。そんな宇佐見さんが、バゲットやクロワッサンの故郷を離れ、パンの消費量が多いことで知られる京都市に移り住んで感じたのは、裾野の広さだ。

「ハード系のパンがおいしい新しい店がどんどんできる一方で、『まるき製パン所』や『大正製パン所』といった昔ながらのパン屋さんの人気も健在。さらに『志津屋』や『進々堂』など、地元に根付いたチェーン店も頑張っている。いろいろなタイプの店がともにパン文化を支えているのが、京都なのだと思います。ですから、この街のパンの底力を実感するなら、ロングセラーも新しいパンも、どちらも試してみるといいですね。また、誰もが知っているような、親しみやすいパンが好きな地元の方が多いからでしょう、自分たちが作りたいパンを置くというより、そうした地元の人たちに寄り添った品揃えをしているお店が多いところも、好感が持てます」

 なかでも京都らしいなぁと感心しきりなのが『志津屋』のロングセラー「京かるね」だ。「パンとオニオンとハムだけという、究極のシンプルさ。こんなパン、東京ではなかなか見かけないですよね。こういうシンプルなパンが生まれることもそうですし、それを愛する京都人も、やるなぁという感じ。京都の方言で、ちょっと小腹が減ったときの軽い食べ物という意味の、〝むしやしない〞という言葉がありますが、これはまさにそう。『まるき製パン所』のハムロールも同じですが、そんな〝むしやしない〞がいくつもあるのも、特徴だと思います」

 パン充実の街ゆえ、住んでまだ1年にも満たないが、大好きなハード系でお気に入りの店も、次々と見つかっている。住まいの近くにある『喫茶とパンdo.』もそのひとつ。

「ふらっと入ってみたら、サワードゥにパン・ド・カンパーニュ、モラセスとハチミツの黒パンなど、食事パンがどれもおいしくて。なんの前情報もなく入った店で、ここまでの食事パンに出合えるのがすごいなぁ、と。満足してしまって、ほかのパン屋さんを探さなくてもいいわ、と思ってしまったくらい」

 が、それでも、おいしいパンに出合ってしまうのが、激戦地たるゆえん。人づてに入手したパンに、またまた心を奪われた。それが、完全予約制の『エンタ』だ。

「パンの食感や味、お店の雰囲気、すべてが好み。何を食べてもおいしい。こちらにもパン・ド・カンパーニュがあるんですが、『喫茶とパンdo.』と同じ、天然酵母の長期熟成なのに、食べるとまったく違う。そういうところにも京都のクオリティの高さを感じます」

 クロワッサンやパン・オ・ショコラといったヴィエノワズリーもまた、しかり。

「独特のポリシーの持ち主で、レストランをやりながら、パンも焼いているのが、『ジェルメ』のシェフです。手間がかかるので、本場フランスでも、ヴィエノワズリーを作る職人が少なくなっているというのに、料理を作りながら、美しいクロワッサンやパン・オ・ショコラを焼いている。しかも、バゲットやブリオッシュまで作っていて、バゲットはほかのレストランにも卸しているのですから、京都の職人さん、恐るべしです」

宇佐見紀子 『ア リトルプレイス』オーナー

昨年4月に京都へ移住。8月に、歴史ある町家に、庭師の成井大甫さんとタッグを組み、〝美を掬う〞をテーマにしたギャラリーをオープン。宇佐見さんが苧麻(ちょま)で作った服もディスプレイしている。▽京都市中京区押小路通御幸町西入ル橘町610 営業日はInstagram@_a_little_place_にて。

宇佐見紀子

この記事はパン好きが集う街・京都の新定番を紹介したものです。新定番の3軒を紹介した記事はこちら。

photo : Kiyoshi Nishioka text : Yuko Saito

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