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お香1本分の時間、無心になる。京都の香老舗が伝える、香りがもたらす数分間の癒やし。March 12, 2025
古くより愛される香りを知り、自分だけのお気に入りを探す。
立ち上る煙を目にし、好きな香りに包まれる。お香をたく数分は、忙しい日々で凝った心をすっとほぐしてくれる時間。遡れば清少納言が枕草子に「心ときめきするもの(中略)よき薫たき物たきて、一人臥したる」と書いたように、長く人々にやすらぎを与えてきた。
「爽やかで、高揚感をもたらす白檀は朝。夜は心を静め、よい眠りにつける沈香をといわれます。希少な伽羅は華やか。とはいえ気に入ったものが一番です。今はすみれやゆりなどの香油を使った香水線香もあって、種類が豊富ですから」と『香老舗林龍昇堂』店主の林慶治郎さん。惜しむことなく試しだきをしてくれるのも、そんな思いから。香料は天然由来のものを使用し、主張しすぎない香りが上品だ。
芳香に囲まれている林さんだけに、もう香りは十分かと思いきや、そうではないという。
「箱に商品名を手書きすることがあるのですが、筆をとる際には紫雲という線香が欠かせません。沈香を使ったバランスのいい香りで落ち着きますし、集中もできるのです」
長さ6㎝のお香なら燃焼時間は10分ほど。わずかな時間だからこそ、慌ただしい平日の合間でも気負いすぎることもない。部屋に残る香りを楽しみつつ、気持ちのスイッチが切り替わったことを実感するひとときを。
林 慶治郎 Keijiro Hayashi『香老舗 林龍昇堂』店主
天保5(1834)年の創業以来、香木や線香を一筋に商い続ける『香老舗林龍昇堂』6代目当主。法衣店を経て、家業に携わり約60年。元離宮二条城の梅を使った「二条城梅だより」などを考案。▽京都市中京区三条通堀川東入橋東詰町15☎075‒221‒2874 平日9時~18時、土曜祝日~17時、日曜定休
photo : Yoshiko Watanabe text : Mako Yamato