MOVIE 私の好きな、あの映画。

極私的・偏愛映画論『ガタカ』選・文 / 三宅詩菜(デジタルキュレーター) / March 25, 2022

This Month Themeもの選びのセンスに心惹かれる。

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観るたびに発見がある、空間デザインとエレガントなファッション。

近未来、人工授精と遺伝子操作によって造り出された高性能な人間、「適正者」だけが社会で活躍出来る世界。自然出産で生まれたヴィンセント(イーサン・ホーク)には心臓の疾患があり、「不適正者」として差別され、宇宙飛行士になる夢を叶える術もない。そんな中、他人の遺伝子情報を使って「適正者」のジェロームに扮する事で、徐々に夢に近づいていく。

その時代の差別は遺伝子での差別が横行する。こんなディストピアンな話なのに、美しすぎてうっとりしてしまう。ガタカの近未来は50年代風レトロが混ざったシャープでミニマルな世界。要らないものはすっかり排除され、シンボリックな要素が散りばめられた映像美には、観るたびに発見がある。ジェロームが働くガタカ社には空がよく見えるダイナミックな天窓があり、温かみのある天井のライティングは星を思わせる。(撮影に使われた実際の建物はフランク・ロイド・ライトの作品)。会社内のジムではメタリックな球形の中で人が回転し、まるで惑星が回転しているかのよう。そして ジェロームとユージーン(ジュード・ロウ)が住む家は住まいというよりアイデンティティをすり替えるラボであり、印象的な螺旋階段はDNAの構造を思い起こさせる。無機質な空間だが、置いてある数点の家具はミース・ファン・デル・ローエ。ユージーンの洗練されたヨーロピアンテイストがここで表されている。本音を言うと、ジュード・ロウの美しさにも毎回うっとりしてしまう。

ファッションに関しても、男性は全員スマートなスーツ。キリッとネクタイを締めた、エレガントでクラシックな佇まいを見ていると、未来なのか過去なのか分からなくなる。そして一際光るのはヒロインのアイリーン(ユマ・サーマン)。ガタカ社の制服はシンプルな紺の丸襟のジャケットに、 着物の振袖の衿元のように交差されたシルクのシャツを覗かせたもの。そんなストイックなユニフォームに、ユマ・サーマンのピシッとしたシニヨンとエキゾチックな美しさが、なんともシュールにマッチングしている。その後登場するシルバーのドレスとローレン・バコールのように下ろした髪型もとても素敵。でも個人的にはやっぱりあのユニフォーム姿がお気に入り。あんなシャツはどこで買えるのだろうと探したこともありました。

忘れられてはならないのが、アイリーンのベッドルーム。真正面の海とまるで部屋が一体化したような贅沢な眺め。波の音を聞きながら、海の中にいる夢を見るのかな、と想像しながら何十回も観たこの映画ですが、その度に新たなディテールを発見して、魅了されるのです。

illustration : Yu Nagaba
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遺伝子操作で造られた高性能人間「適正者」の社会に、自然分娩で生まれた「非適正者」が、非合法に夢を叶えようと挑むシュールな物語。SFのイメージから逸脱した、レトロフューチャーな美意識に溢れるファッショナブルでエレガントな映像に加え、ユマ・サーマン、イーサン・ホーク、ジュード・ロウというキャスティングが魅力的。
Title
『ガタカ』
Director
アンドリュー・ニコル
Screenwriter
アンドリュー・ニコル
Year
1997年
Running Time
106分

『ガタカ』発売中
Blu-ray 2,381円(税別)/DVD 1,410円(税別)
発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
©1997 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. ALL RIGHTS RESERVED.


デジタルキュレーター 三宅 詩菜

パリの大学でビジュアルコミュニケーションを学ぶ。その後、アートディレクション、グラフィックコンセプション、キュレーションなどを手がける。 Instagram(@sheena.miyake)では自身が感じた「美しいもの」を紹介している。

sheenamiyake.com

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