コンスタンティン・ブランクーシThis Month Artist: Constantin Brancusi / August 10, 2016

Author

河内 タカ

コンスタンティン・ブランクーシ
Constantin Brancusi
1876-1957 / ROU
No. 033

ルーマニア出身。パリを拠点に長らく活躍し、20世紀の抽象彫刻を代表する独創的な彫刻家。単純なユニットの反復により構成された『無限柱』シリーズや、対象物の本質を捉えるために単純な形態に切り詰めていった『空間の中の鳥』などを制作し、後の芸術やデザインへ多大なる影響を及ぼす。まだ駆け出しだった頃のイサム・ノグチはパリでブランクーシの助手となることで抽象彫刻家としてのキャリアに方向性を見出した。

コンスタンティン・ブランクーシの彫刻が
所狭しと置かれた小宇宙的なアトリエ

 ルーマニア生まれのコンスタンティン・ブランクーシは、ピカソと並び20世紀芸術を代表するアーティストといっても過言でない独創的な彫刻家であり、後のミニマル・アート(余分な部分を削ぎ落とし、シンプルな色や形を用いて表現する芸術スタイル)の先駆け的な作品を生み出した、マティスやモンドリアンやカンディンスキーと肩を並べるほど、モダンアートにおける最重要人物の一人と考えられています。

 農家の息子として生まれたブランクーシは、1904年、祖国の首都ブカレストで美術を学んだ後にパリに居を移し、あのロダンの下で1ヵ月間だけ修業した後に、誰にも似ていないようなかなり独創的なスタイルを構築していきます。その間に、ルソー、レジェ、モジリアニ、デュシャンらとも親交を結び、またマン・レイの助けを借り、アトリエにカメラを備え付けて自分の作品やアトリエ風景を数多く撮影していました。

 そのブランクーシが1957年に亡くなる前年の頃、パリ市街地の整備計画が進められていて、彼のアトリエはゆくゆく壊される運命になっていたそうです。そのため、フランス政府にアトリエをそっくりそのまま遺贈することを約束していて、それがポンピドゥー・センターのそばに移築された「アトリエ・ブランクーシ」という美しい展示室です。

 自然光が差し込む、高い天井を持つこの白い空間で目にすることができるアトリエは全部で4室あり、ブランクーシの代表作とされる『無限柱』『空間の中の鳥』『大きな雄鶏』『眠るミューズ』といった極上の作品が所狭しと展示されています。加えて、それらの傑作が生み出されていた仕事場もほぼ忠実に再現され、日々手にしていた使い込まれたノミやペンチやドリルなどの道具も自然に置かれていたりします。

 ブランクーシの作品というのは、あまり難しく考えなくても、たとえば、飛ぶ鳥、眠る人の頭部、キスをする二人など、そのすべてでタイトルが示すままの形状が見て取れるのが大きな魅力です。しかも、物の本質を見出そうとしていたブランクーシが究めたシンプルさというのは、芸術的でありながらも素朴で実に人間味に溢れているのです。

 さらに興味深いのは、ブランクーシの無駄なものを削ぎ取ったような極限的な彫刻が置かれる台座部分が凝っているところで、石、材木、石膏などいろいろな素材や形態を「だるま落とし」のように積み重ねることで、てっぺんに置かれる彫刻作品と一体化するようにして絶妙な効果を上げています。

 そんなブランクーシの彫刻と空間の関係性を念頭におきながらこのアトリエ全体を見て廻ると、彼にとって作品とそれが置かれる空間とのハーモニーや位置こそがもっとも重要だったことがひしひしと感じられ、それゆえ、このアトリエ自体がブランクーシにとっての小宇宙に見えてくるわけで、このすべてがひとつの総合的な作品なのだといってしまっていいのかもしれません。

Illustration: Sander Studio

Constantin Brancusi (MOMA Artist Series)

『Constantin Brancusi (MOMA Artist Series)』(Carolyn Lanchner)20世紀の抽象彫刻に多大な影響を与えたルーマニア出身の彫刻家、コンスタンティン・ブランクーシ。ニューヨーク近代美術館のキュレーターが彼の作品を調査し、その魅力を35枚のカラー写真とともにコンパクトにまとめた一冊。


文/河内 タカ

高校卒業後、サンフランシスコのアートカレッジに留学。NYに拠点を移し展覧会のキュレーションや写真集を数多く手がけ、2011年長年に及ぶ米国生活を終え帰国。2016年には海外での体験をもとにアートや写真のことを書き綴った著書『アートの入り口(アメリカ編)』と続編となる『ヨーロッパ編』を刊行。現在は創業130年を向かえた京都便利堂にて写真の古典技法であるコロタイプの普及を目指した様々なプロジェクトに携わっている。この連載から派生した『芸術家たち 建築とデザインの巨匠 編』(アカツキプレス)を2019年4月に出版、続編『芸術家たち ミッドセンチュリーの偉人 編』(アカツキプレス)が2020年10月に発売となった。

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