コンスタンティン・ブランクーシThis Month Artist: Constantin Brancusi / August 10, 2016
河内 タカ
コンスタンティン・ブランクーシの彫刻が
所狭しと置かれた小宇宙的なアトリエ
ルーマニア生まれのコンスタンティン・ブランクーシは、ピカソと並び20世紀芸術を代表するアーティストといっても過言でない独創的な彫刻家であり、後のミニマル・アート(余分な部分を削ぎ落とし、シンプルな色や形を用いて表現する芸術スタイル)の先駆け的な作品を生み出した、マティスやモンドリアンやカンディンスキーと肩を並べるほど、モダンアートにおける最重要人物の一人と考えられています。
農家の息子として生まれたブランクーシは、1904年、祖国の首都ブカレストで美術を学んだ後にパリに居を移し、あのロダンの下で1ヵ月間だけ修業した後に、誰にも似ていないようなかなり独創的なスタイルを構築していきます。その間に、ルソー、レジェ、モジリアニ、デュシャンらとも親交を結び、またマン・レイの助けを借り、アトリエにカメラを備え付けて自分の作品やアトリエ風景を数多く撮影していました。
そのブランクーシが1957年に亡くなる前年の頃、パリ市街地の整備計画が進められていて、彼のアトリエはゆくゆく壊される運命になっていたそうです。そのため、フランス政府にアトリエをそっくりそのまま遺贈することを約束していて、それがポンピドゥー・センターのそばに移築された「アトリエ・ブランクーシ」という美しい展示室です。
自然光が差し込む、高い天井を持つこの白い空間で目にすることができるアトリエは全部で4室あり、ブランクーシの代表作とされる『無限柱』『空間の中の鳥』『大きな雄鶏』『眠るミューズ』といった極上の作品が所狭しと展示されています。加えて、それらの傑作が生み出されていた仕事場もほぼ忠実に再現され、日々手にしていた使い込まれたノミやペンチやドリルなどの道具も自然に置かれていたりします。
ブランクーシの作品というのは、あまり難しく考えなくても、たとえば、飛ぶ鳥、眠る人の頭部、キスをする二人など、そのすべてでタイトルが示すままの形状が見て取れるのが大きな魅力です。しかも、物の本質を見出そうとしていたブランクーシが究めたシンプルさというのは、芸術的でありながらも素朴で実に人間味に溢れているのです。
さらに興味深いのは、ブランクーシの無駄なものを削ぎ取ったような極限的な彫刻が置かれる台座部分が凝っているところで、石、材木、石膏などいろいろな素材や形態を「だるま落とし」のように積み重ねることで、てっぺんに置かれる彫刻作品と一体化するようにして絶妙な効果を上げています。
そんなブランクーシの彫刻と空間の関係性を念頭におきながらこのアトリエ全体を見て廻ると、彼にとって作品とそれが置かれる空間とのハーモニーや位置こそがもっとも重要だったことがひしひしと感じられ、それゆえ、このアトリエ自体がブランクーシにとっての小宇宙に見えてくるわけで、このすべてがひとつの総合的な作品なのだといってしまっていいのかもしれません。