LIFESTYLE ベターライフな暮らしのこと。
写真家・川内倫子さんの暮らしとセンス。自分だけの視点を持つこと。 (後編)June 30, 2025
センスがあるといわれる人たちは、どんな暮らしをしているのか。自分だけの感性を信じ、妥協せずに好きなものを取り入れる。出産から約1年後、自然に囲まれた土地へと引っ越しをした写真家・川内倫子さん。その千葉の暮らしを訪ね、生の強さと儚さ、優しさといった、神秘的ともいえる独特の世界観を表現する彼女のセンスについて聞いてみた。
発売中の特別編集MOOK「センスのいい人は、何が違う?」より、特別にwebサイトでも紹介します。
3.日々、大事にしている習慣。Daily Routine
朝はコーヒー、夜はお酒を飲むのが毎日の習慣。コーヒーは夫が毎朝、こだわりをもって淹れている。「彼の好きな焙煎所があり、1時間かけて豆を買いに行ってくれます」。川内さんは、起きたらまず、ポットに淹れてあるコーヒーに豆乳を少し入れて飲む。それでだんだんと目を覚ましていく。
4.大切に思っているものたち。Important Things
作品としてアウトプットするためにはインプットも大切。映画を観たり本を読む他に、アートを眺めたり、手仕事のものを手にしたり、フワフワの手触りを感じたりすることでも感情が動く。リングやピアスといったアクセサリーは、かわいいからというのもあるが、お守り的な意味でも身に着けている。
誰かの真似ではない、独自の目線で行動する。
目には見えないけれど、きっとあるここではない世界。それをずっと傍らに感じていた川内さんが考える“センスがある”とはどういうことか、質問してみた。
「その人にしかない目線だと思います。ぼやっとしていない、信念みたいなものを感じると、独自の感覚があるのだと思います」
それは、自身の作品制作でも常に目指していること。初めて意識したのは、写真部門グランプリを受賞した1997年の公募展『ひとつぼ展』の作品だったという。
「自分ぽい写真が撮れたと思ったのはそのときが初めてでした。それまで、うまく撮れていると思っていたのですが、自分でうまく撮れたと思っているうちは真似ごとというか、すでに評価されている何かと近いものでしかない。でも、そのときの作品はいいのか悪いのかわからなかった。ただ、自分の奥から出てきたものだからなんとなく恥ずかしくて自分らしいなあ、という思いはありました。模倣から始まったとしても、それを超えるには自分の目線がないといけない。それに気づいてシフトして作った作品で賞をいただけたのは、とてもよかったです」
そのせいか大切に思っているものも、人の思いや信念、つまりセンスをダイレクトに感じられる、手仕事品やアートが多い。
そのうちの一つは夫による手作りの作品。コロボックル物語に出てくる人間“せいたかさん”のように背が高い彼は、自然とともに暮らすことが得意で、庭に小屋を建てたり、ものづくりにも長けている。家の中には彼が作った家具や照明、オブジェがたくさんあるが、毎年、川内さんの誕生日にも手作りのものをプレゼントしてくれるそう。
「夫を見ているとものづくりに必要なものをしっかり持っていると感じます。大人になるとなくしてしまいがちなものを持ち続けている。ふと気づくと俗っぽくなっている私を引き戻してくれる存在でもあります」
リングやピアスなどのアクセサリーも手で作られたもの。天然石を使っているものも好きで、仕事でもプライベートでも、お守りのように着けているという。
アートもいろいろと持っているが、廊下に飾っているのは、友人の久保田珠美の作品。
「一緒に北海道を旅行したのですが、そのときに受けたインスピレーションで作った作品。ダイヤモンドダストや雪の結晶をイメージしているそうです。同じ場所に行ったのに彼女はこういうふうに感じて、こういう形でアウトプットするんだと見ることができて、面白いです」
その唯一無二の視点はまさにセンスといえるもの。アート作品からは、純度の高い感受性を受け取ることができる。
「もう一つ、大切にしているのがフワフワなもの。昔から好きで身近にないと落ち着かない。アルパカは最近、買いました」
住む場所、手にするもの、仕事への取り組み方……。独自の目線で選択された暮らしは、川内さんにしかないセンスのエッセンスによって、紡がれている。
川内倫子Rinko Kawauchi
1972年滋賀県生まれ。2002年『うたたね』『花火』で第27回木村伊兵衛写真賞受賞。『Illuminance』『あめつち』などの著書がある。2022~23年には個展『川内倫子:M/E 球体の上 無限の連なり』を開催、国内外で数多くの展覧会を行う。
photo : Tetsuya Ito edit & text : Wakako Miyake