Art素顔の芸術家たち

This Month Artist: Joel Meyerowitz / January 10, 2018 ジョエル・マイロウィッツ文/河内 タカ

JoelMeyerowitz
Joel Meyerowitz
1938 – / USA
No. 050

1938年ニューヨーク生まれ。オハイオ州立大学で美術を学び、卒業後は1965年までコマーシャル分野でアート・デレクションとデザインの仕事を行う。ロバート・フランクと仕事をしたことが契機となり、1963年から35mmカメラを使ってのスナップ写真撮影をスタート。そして、1970年代中頃から8X10の大型カメラとカラーフィルムを使用するようになり、1976-77年に東海岸のケープコッドの美しい風景を撮影したシリーズをまとめた『ケープ・ライト』を発表して大きな話題となる。近年は『Morandi’s Objects』(2015)や『Cézanne’s Objects』(2017)といった写真集を出版し、表現の幅をさらに広げている。

カラー写真による際立ったヴィジョン
ジョエル・マイロウィッツ

 ウィリアム・エグルストンやスティーブン・ショアとともに「ニューカラー」を代表するのがジョエル・マイロウィッツという写真家です。この「ニューカラー」とは1970年代に登場しカラーのフィルムを使用して撮られたアート写真のことを指しての言葉なんですが、1976年にニューヨーク近代美術館(MoMA)で開催されたエグルストンが南部で撮ったカラー作品が高く評価されたことで(それまでのカラー写真というのは商業写真や広告などで主に使われていたのです)、それ以降、アートとしてのカラー写真が浸透していったという経緯がありました。

 ジョエル・マイロウィッツは1938年にニューヨークに生まれ、進学したオハイオ州立大学では絵画を学び、卒業後も写真家としてではなくデザイナーやアートディレクターをやっていました。ところがスイスからニューヨークに渡ってきて活動をしていた写真家のロバート・フランクと仕事をしたことで、自身も写真家としての道を進むことを決意したとインタビューで語っています。

 当時のマイロウィッツはフランクに倣ってか、モノクロのフィルムを使ってストリート写真を撮っていました。というのも、60年代当時のカラーによる撮影は色のコントロールが困難だったことに加えてプリント代も高価だったため、カラー写真に興味がありながらもそれによる撮影にはまだ踏み込めずにいたというのです。しかし、1976年から一転してアメリカのディアドルフ社製の大判ビューカメラを使い始め、また自らプリントを手がけていったことでカラーによる独自の表現を打ち出したことで、ニューカラーを代表する写真家と評されるようになっていきました。

 繊細な色合いと絶妙なコンポジションで知られるマイロウィッツの作品は、フランクやリー・フリードランダーやゲイリー・ウィノグランドらが先立って切り開いた「自己表現としての写真」をカラー写真によって表現したものでした。しかも、もともと絵画を学んだマイロウィッツなだけに、移り変わる光の効果を巧みに使うことで、まるで「ハドソン・リバー派(19世紀半ばのロマン派の影響を受けたアメリカの風景画家のグループでトマス・コールがその創始者とされている)」の絵画のような澄み切った色調の作品を生みだすことができたのかもしれません。

 そんなマイロウィッツの代表作となったのが、1978年に出版されたアメリカ北東部の町で避暑地として知られるケープコッドの海辺の風景を撮った『ケープ・ライト』と題された写真集で、それぞれの写真はなにげない風景であるのに、まさにその場所にしか存在しないようなどこか特別な空気感に満ちていました。その後も建築家のエーロ・サーリネンが設計したセントルイスに建造された巨大アーチを撮り下ろして「セントルイス・アンド・アーチ」と題した写真集を出版、2001年9月11日に発生した同時多発テロ後に世界貿易センタービル倒壊跡地に入ることを許され、凄まじさに満ちた惨状を約9ヶ月間に渡って撮影したりもしました。

 また近年の取り組みとして、イタリアの画家モランディのアトリエを訪れ、モランディがかつて描いた瓶や陶器などの静物を撮ったり、その続編としてセザンヌの南仏のアトリエでの撮影も行い美しい写真集として出版したりと、79歳にして常に新しいことに挑戦し続けているマイロウィッツは今もアメリカ写真を代表する写真家としてリスペクトされ続けているのです。

Illustration: Sander Studio

『St.Louis and the Arch』(New York Graphic Society)セントルイス美術館の招きによってセントルイスの街を訪れたジョエル・マイエロウィッツが、ゆっくりと街を歩き回って調査しつつ、その街をカメラに収めた写真集。図版たっぷりのボリューミーな一冊。


文/河内 タカ

高校卒業後、サンフランシスコのアートカレッジに留学。NYに拠点を移し、展覧会のキュレーションや写真集の編集を数多く手がけ2011年に帰国。アマナの写真コレクションのディレクターに就任。2016年には自身の体験を通したアートや写真のことを綴った著書『アートの入り口(アメリカ編)』と続編となる『ヨーロッパ編』を刊行した。現在は、京都便利堂において写真の古典技法であるコロタイプの普及を目指した業務に携わっている。