& Premium (アンド プレミアム)

Book

vojitsusha 忘日舎


Book 131 / September 14, 2018 『阿・吽1』おかざき真里 著(小学館) 選・文/忘日舎

日本の仏教史における重要な二人の僧、最澄と空海。彼らを主人公に据え、当時の歴史群像を大胆なエンターテインメントとして描くこのマンガの面白さは、スリリングなストーリー展開ばかりではない。作家がその圧倒的な画力とともに問いかけるのは、大げさでなく「生きるとはなにか」そのものである。愛と生と死、エロティシズム、暴力、人間の業の深さがこの作品には凝縮されている。ここで描かれる最澄と空海の魅力に抗うのは、性差を超えて難しいように思われる。第1巻には「犀の角のごとくただひとりゆけ」という言葉が表れるが、魅力的な生き方をするためには、歴史に学ぶのがいちばんだ。もうひとつ、彼らが「読む」行為によって何かを変えうるという意志が、その迫力極まる画とともに描かれている点も見逃すことはできない。現在、第8巻まで刊行。


Book 130 / September 07, 2018 『生きがいについて』神谷美恵子 著(みすず書房) 選・文/忘日舎

大学で文学を専攻していた著者は、あるときハンセン病療養所を訪れたことをきっかけにやがて医学へと転向し、精神科医となる。実際に治療にあたり、患者とのかかわりのなかで感じた「生きがい」についての思索が、本書では綴られる。著者は、あいまいな言葉としての「生きがい」は、あっさり片付けられそうにないという。しかし、それはやはり大切で、なぜ生きるうえで「生きがい」が必要なのかという真摯な問いかけがここには記されている。「困難な状況にある人々」に寄り添い、考え、そして実践してきた著者の思想ゆえに、本書は多くの読者を獲得してきた。巻末の付録と合わせて読めば、いっそうこの本と著者の魅力が増すように思えてならない。


Book 129 / August 31, 2018 『そっと 静かに』ハン・ガン 著 古川綾子 訳 (クオン) 選・文/忘日舎

2016年に『菜食主義者』でマン・ブッカー賞を受賞した作家のエッセイが初邦訳。著者は現代韓国文学を牽引する作家のひとりだが、その繊細に紡がれた言葉と翻訳からは、同時代を生きる誰しもが、毎日のように経験するであろう心の揺らぎを、本書のテーマである音楽への思慕とともに語りかけてくる。メモ書きのような、しかし実際には深いところにひそむ筆致の強靭さは著者の他作品『ギリシャ語の時間』、また光州事件を扱った『少年が来る』を読むことで紐解かれるだろう。個人として社会や政治、歴史と向き合うこと。その過酷な現代を経験することで育まれた穏やかさと優しさは並大抵のものではない。この本は、文字どおり音楽の残響のように深い余韻を残す。


Book 128 / August 24, 2018 『近代日本人の発想の諸形式 他四篇』伊藤整 著(岩波文庫) 選・文/忘日舎

近代日本人の発想の諸形式

「愛してなどいるのではなく、恋し、慕い、執着し、強制し、束縛し合い、やがて飽き、逃走しているだけなのである……「近代日本における「愛」の虚偽」(同書所収)」。 近代以降に西洋から輸入された様々な概念のうちにあって、伊藤は「愛」についても、もちろんまた見逃さなかった、ということなのだろう。ある大学の先生に教えてもらったこの言葉には、他者との関係を根源的に揺さぶり、日常に溢れかえる「それ」を突き刺す、確かな批評としていまなお屹立していると思われる。素敵とされる生き方を実践するには、他者との関わり方と同時に、自己を捉え直す作業を繰り返していくほかない。


vojitsusha 忘日舎

本と言葉と場所の可能性を広げるイベントも開催するなど、言葉にはしづらい感覚的な豊かさや感受性を育てることを目指したブックショップ。
東京都杉並区西荻北3-4-2
https://www.vojitsusha.com/about