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oheso books おへそ書房


選・文 / おへそ書房 / May 14, 2020 本屋が届けるベターライフブックス。
『硝子戸の中』夏目漱石 著(新潮文庫)

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「硝子戸の中(うち)から外を見渡すと、霜除をした芭蕉の、赤い実の結なった梅もどきの枝だの、無遠慮に直立した電信柱だのがすぐ眼に着くが、その他にこれと云って数え立てるほどのものはほとんど視線に入って来こない。書斎にいる私の眼界は極きわめて単調でそうしてまた極めて狭いのである——」
晩年の漱石が、わずかに外界とつながる硝子戸の中に見出した39の景色と記憶。子供の頃のこと、飼い犬、焚き火で煤けた末娘の顔。不愉快に充ちた人生、若い女性の悲痛な記憶。戦争、大病など豊かさとは対極に追い詰められ、次第に死へと傾きつつあった漱石が独り居の中にあって、生をただただ傍観するかのように、静かな筆致で描いた少文集、そこに微かに見え隠れする優しい肯定。「そんなら死なずに生きていらっしゃい」。


選・文 / おへそ書房 / May 07, 2020 本屋が届けるベターライフブックス。
『辰巳芳子 スープの手ほどき 洋の部』辰巳芳子 著(文藝春秋)

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スープの神様と呼ばれる著者による、まるで随筆のようなレシピ集に書かれていたのは、何よりも”時間”についてではなかったでしょうか。湯が湧く、玉ねぎに火が通って次第に美しく透き通ってゆく、もうすぐ夏がやってくる。私、あるいはあなたがスープの完成を待っている時間。すべてを丁寧に、よく観察すること。美味しいスープができるかもしれない、できないかもしれないし、作らなくても良いかもしれない。色々と良くなるかもしれないし、もっと悪くなるかもしれない。日々の生活の中に、この本の中に、少しだけ立ち止まって、鍋に向かう僅かな時間を感じることができたのなら、きっとそれだけでも幸福です。


選・文 / おへそ書房 / April 30, 2020 本屋が届けるベターライフブックス。『夢の中の夢』アントニオ・タブッキ  著(岩波書店)

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ミケランジェロ、チェーホフ、フロイト、ペソア。イタリアの作家アントニオ・タブッキが幻視した、20名の芸術家たちが見たかもしれない、“何かの象徴ではなく存在する”夢のスケッチ。評伝のようでも詩のようでもある、文学的想像力によって繊細に縫い合わされた断片は、頭の中に思い起こせば思い起こすほど、物語から遠ざかって消えてゆくようです。その途轍もない遠さを天井に見上げて、夢見ることを夢見るための、鎮静剤のような1冊。


選・文 / おへそ書房 / April 23, 2020 本屋が届けるベターライフブックス。『りんごとちょう』イエラ・マリ、エンゾ・マリ 著(偕成社)

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 「ある場所での蝶の羽ばたきは、遠いどこかで竜巻の要因となりうるか」。りんごの中の卵が幼虫になり蛹となって冬を超え、蝶になって羽ばたき、やがてまたりんごの花に卵を産み付けるまで。テキストはなく、在るのはグラフィックデザイナーとして知られる、イエラ・マリによる色数を抑えた繊細な描線だけ。本の中での出来事はいつだって、読む者ひとりひとりの心の奥に起こるもの。そしてこの本の中にある静かな羽ばたきは、1冊の本が距離を超え時間を超えて、私達のこころに触れるときの感触を、いつだって思い起こさせます。


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子どもも大人も、おとしよりも気軽に立ち寄れる、気さくな本屋。文学・美術・建築・自然科学・絵本・料理・趣味の本などを主に取り扱っている。
住所:東京都武蔵野市境2-3-20
電話:0422-69-0722
営業時間:11:00~21:00
定休日:木曜日
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