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極私的・偏愛映画論『男と女』選・文 / 轟木節子(スタイリスト) / October 31, 2019

This Month Theme時を越えるクラシックな作品だと思う。

高校生のときから心を静かに刺激される憧れの対象。

 さて。今回のテーマ「時を越えてクラシックになっていくもの」を選
び、タイムカプセルに入れるとしたら、わたしは1966年のフラン
ス映画『男と女』を選ぶ。
ジャスト・クラシックな映画なら、ルキノ・ビスコンティ監督のモノ
クロのイタリア映画を選んだと思うが、時を越えて語り継ぎたいのは、映像、音楽共に美しい『男と女』だ。
いつ観ても古くなく、美しく、粋であり、心を静かに刺激される、憧れ
の対象。
 うん、私の思うクラシックの定義のようなものに合致する。
主演のアヌーク・エーメのくっきりとしたアイライン、Aラインのコー
ト、ポインテッドトゥーのローヒール、ハンドバッグやグローブといっ
た日常着もクラシックだ。

 舞台はフランス。ドーヴィルにある同じ寄宿舎にお互い子供を預けて
いることから知り合い、惹かれ合う男女の揺れる心を描いたこの作品。
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映画の金字塔と言われているが、当時は無名だった監督のクロード・ルルーシュが自ら資金を調達し、
カメラを回し、プロデューサー不在の中、友人から友人へと声を掛け
合いキャスティングして制作したというから驚く。映画自体よりも有
名になりすぎたくらいの「ダ ヴァ ダヴァ ダ」のメロディーを生んだ音楽のフランシス・レイも当時はアコーディオン弾きをしていたという。


 
大人になって物作りの現場に身を置いた目線で改めて観てみると、
20代後半の若き監督の、やりたいことがぎゅっと詰まった、画
角やカメラの位置の妙、編集。きらきらした物作りの瑞々しさも
感じられて心地よい。

 好きな映画は? と問われると雑誌『オリーブ』好きの高校生だった頃から『男と女』を挙げることが多く、アヌーク・エーメに憧れ、リキ
ッドアイライナーでアイラインをひいて、母のお古のハンドバッグ
とファーのコートを着る日もあった。
大人になってからは、公開当時のパンフレットを集めたり、サントラ
のレコードはジャケットのデザイン違いで買い集めたりした。


 なにがそんなに好きなのか。


 主人公の二人が乗った車のフロントガラスに写り、流れる木々。

カラー、モノクロ、セピアの使い分けの感覚。
レストランのテーブルにあるアネモネの花。

トリコロールの挿し色。海岸を走る犬。

アルベルト・ジャコメッティの逸話について語り合える二人の知性。
タイミングを逃さない男、レーサーのジャン=ルイの行動力。


 美しさに溢れ、根っこにはパッションがあるものが好きだということに落ち着く。
惹かれて見続けてきたこの作品が、わたしの感性を磨いてくれた映画かもしれないと思うと愛しくなる。


 『男と女』の二人の53年後を描いたという『男と女 人生最良の日々』
が2020年に公開されるというニュースを知った。
好きな映画の主人公たちには、映画と時空を越え、パラレルワールドで時
を重ねていて欲しいと願ってしまうものだ。
長きにわたり愛され続け、ロマンティックが在るものが
クラシックになっていくのだとあらためて思う。

illustration : Yu Nagaba
クロード・ルルーシュ監督による恋愛ドラマ。主演はアヌーク・エーメとジャン=ルイ・トランティニャン。スタントマンの夫と死別したアンヌと、妻を亡くしたカーレーサーのジャン・ルイによる大人の恋愛が、フランシス・レイ、ピエール・バルーの音楽と美しい映像にのせてつづられる。1966年の第19回カンヌ国際映画祭ではパルムドールを、アカデミー賞では外国語映画賞を受賞した。二人の53年後を描いたクロード・ルルーシュ監督、音楽は惜しくもこの作品が遺作となったフランシス・レイによる『男と女 人生最良の日々』が2020年1月31日に公開が決まっている。
Title
『男と女』
Director
クロード・ルルーシュ
Screenwriter
クロード・ルルーシュ
ピエール・ユイッテルヘーベン
Year
1966年
Running Time
102分

スタイリスト 轟木 節子

1972年熊本県生まれ。生活に溶け込むナチュラルなスタイリングが人気で、雑誌や広告などで幅広く活躍中。無染色のカシミヤ”を使ったものづくりを展開する〈OLU NATURAL BASIC〉やぼぼ日の「轟木節子がつくる、気持ちのいい服」ビワコットンの服など、商品のプロデュースも行っている。

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