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極私的・偏愛映画論『レイチェル・カーソンの感性の森』選・文 / 小梅(俳優、ライフスタイルショップ『BTR』オーナー) / November 25, 2020

This Month Theme住まいの楽しみ方に影響を受けた。

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憧れの森の生活の心地よさを味わい、噛みしめる映画。

きらきらとした木漏れ日の眩しさが清々しいアメリカ・メイン州、
サウスポート島の海辺の森の中のシーンから映画は始まる。
この作品は地球環境に対する問題意識を告発した、生物学者のレイチェル・
カーソンの著書『センス・オブ・ワンダー』を映画化したもの。

映画の内容も味わい深く、特に後半はメッセージ性が強いのだけど、
実は私的にインテリアや服の着こなしに目がいってしまう作品でもあります。
特に前半の森の別荘でのシーンでの部屋全体の雰囲気、籐の椅子、カーテン、
彼女のデニムのプルオーバーの着こなし。プルオーバーから覗くライトブルーの
ギンガムチェックシャツ。ボタンの開け方、襟の重なり……。
背景にはパインの壁とベージュのシェードランプ。少し見えるベッドルームの
モスグリーンのカバー。書斎の窓辺の緑。洗濯物を取り込む時のベージュのコ
ーディネート。さり気ないけれど、ぎゅぅっと素敵なものがちりばめられたシ
ーンがたくさんでいつもうっとりとしてしまう。

この海辺の別荘は、実際にレイチェルが過ごしていた別荘のようで、
そのようなことがクレジットに書かれている。

そして、この映画が好きだなぁと思うもうひとつの理由は、
森の木々のきらめきと「ニューヨーク・フィルハーモニック」
が奏でるベートーヴェンの「Violin Concerto in D Major, Op. 61」
のオーケストラの音色から、自分も森の中にいる森林浴の気分を味わえるところ。
その心地良さったらなくて、いつかは、と夢見ている憧れの森の暮らしを、
束の間に味わえたりもする。

ただ、物語の内容は後半に進むにつれてやや重くなり、自身が患っている癌と、
レイチェルが引き取った幼くして両親を亡くした10歳の甥のロジャーの
行く末を心配する想い、自然環境に対する憂いについて語られていく。
いろんな葛藤を乗り越え、最後には彼女の希望に満ちた自然や動物への
深い愛とメッセージが届けられる。

「鳥の渡り、潮の干満
春を待つ冬目の膨らみ
美しい自然のリフレイン
夜の後には朝が、
冬が去れば春が」

夏の終わりにロジャーが都会へ戻るために荷造りした
はち切れそうなカバンの中身は、
海水と海辺の空気の入ったたくさんのビン。
貝殻や石や松ぼっくり。

この大好きなワンシーンから託されたメッセージも
ずっとずっと考え続けなくちゃと思う、
何度でも観たくなる作品です。

illustration : Yu Nagaba
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レイチェル・カーソンの遺作『センス・オブ・ワンダー』を映画化したこの作品で主演を務めるカイウラニ・リーは、自ら脚本を執筆し、舞台で同作の一人芝居も長年演じてきた俳優。実際のレイチェルとは雰囲気は違うように思うけれど、作品の中のリーはレイチェルそのもの。一言一言が心に染み入ります。
Title
『レイチェル・カーソンの感性の森』
Director
クリストファー・マンガー
Screenwriter
カイウラニ・リー
Year
2008年
Running Time
55分

俳優、ライフスタイルショップ『BTR』オーナー 小梅

女優、モデルとして活動する傍ら、素朴なスタイルを提案するショップ『BTR』を営む。1児の母。
http://nico.co.jp/artist/koume/
https://www.instagram.com/btr_b_t_r/

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