Water 南アルプス「水の山」通信
山梨・北杜より「どの山を背負っているかで、人は決まる」vol.11 / September 19, 2017
南アルプスの麓にある『ケルンコーヒー』は旅行者や地元客で賑わう喫茶店。山の稜線や山頂の積み石を「ケルン」と呼ぶ。店名の由来を尋ねると、オーナーの白砂行教さんは「親父に名前の由来なんて聞かなかったな。父は戦争から引き揚げてきた。その世代の楽しみは山登りぐらいだったから」と笑う。
店舗脇の焙煎所では毎晩、白砂さんが焙煎をしている。東京の大学を卒業後、家業を手伝うようになった。
「地元に戻ると、水のうまい場所なんだと改めて思った。土地にずっといるとわからないもんです。だって、水道をひねればおいしい水が出てくるんだもん」と、屈託なく笑うが、独学で極めた焙煎の腕前の確かなことは、全国にファンがいることが証明している。
「でもね、お客さんがここでコーヒーを飲むでしょう。それで豆を買っていってくれるんだけど、後日『本当にあのとき飲んだコーヒーの豆ですか?』って言われたことがあった。……水が違うんだから、ここの水で淹れるしかないねえ」
特に南アルプスの自然を意識はしないという白砂さんだが「背中にどの山を背負っているかで、人は決まってくるかも」と、ぽつりとつぶやいた。
この地域には富士山、八ヶ岳、甲斐駒ヶ岳といった山々がある。どの山を見て感じて生きているかは、大きく人に影響するだろう。白砂さんがおおらかで逞しいのは、やはりこの地で生きているからなんだろうなと感じた。