Water 南アルプス「水の山」通信
山梨・北杜より賞味期限わずか30分、南アルプスの和菓子。vol.9 / July 19, 2017
山梨の銘菓、信玄餅の名を知る人は多いだろう。この信玄餅を作るのが、明治35(1902)年から甲州街道台ヶ原宿に店を置く『金精軒』。すぐ近くには「七賢」を製造する造り酒屋もあることから、観光客が多く訪れる。ここのところ、その老舗和菓子店の夏の風景が変わった。5年前に発売した水信玄餅が好評で、求める人たちが行列を作るのだ。
水信玄餅とは、まるで水を閉じ込めたかのような、目にも涼しいお菓子。はじめは職人が専門業者にもらった寒天粉を用いて作った「試作の菓子」だった。「おもしろいかも」という気持ちで販売した。しかし、時間が経つと離水してしまうため賞味期限わずか30分という「生産地限定商品」ということも話題となり、行列ができる大ヒット商品になった。
不思議なお菓子だ。このマジックの種は寒天が水を閉じ込めている作用だと知っても、不思議で仕方がない。『金精軒』の和菓子職人、土見奈奈さんは水信玄餅のことを「まるで水を食べているようなお菓子」と言う。そう、光を浴びてキラキラと輝く水信玄餅のほとんどは南アルプスの水なのだ。きな粉と黒蜜をまとった「餅」は口の中でさっと溶け、爽やかな甘味だけが残る。
土見さんはこの地の魅力を「何もない素晴らしさがある。山、川、空気、空がきれいな場所」と評する。水信玄餅も派手な色や味はない。だけど、素材や土地の持つ素朴な良さがある。水信玄餅を食べて、南アルプスの大自然を感じた。