Water 南アルプス「水の山」通信
山梨・北杜より柔らかく立つ、森の中のホール。vol.5 / March 19, 2017
南アルプスの森の中にホールが誕生した。建築家の永山祐子さんと竹中工務店が協業で設計した〈女神の森 セントラルガーデン〉。始まりはお伽話のようだ。
「私が臨月のとき、施主の社長さんがやって来ました。『女性の建築家を探している。森の中にホールを造りたいので現地を見てほしい』って」
その後、永山さんは何度も八ヶ岳南麓、南アルプス周辺にあるこの地に足を運んだ。敷地周囲はアカマツの森だ。
「山に囲まれ、水が豊富。だけど、じめじめせずにカラッとしている。とても爽やかな場所ですね。マリオ・ベリーニ設計の本社はヨーロッパ的な、自然を制御するような建物。一方ホールは森と馴染むことを求められた。森を見て感じたのは、自然に馴染む、日本建築的な柔らかな立ち方でした」
永山さんはホールと多目的スペースを廊下や回廊でつなぎ、自然との距離を縮めた。また細部にもこだわった。森は葉、幹、枝などの小さなものの集積でできている。そこに工業的で大きな面を持つ建築が現れると、存在感が強すぎる。そこで永山さんは林立する樹木を思わせる「森綾」という紋様を考案、壁面やシェード、ホールの椅子などのファブリックにも使った。大きな建築の至る所に、森に馴染むためのこまやかな気配りが施されている。
カフェも備えたホールは、春に本格始動する。人と自然の調和を保つ、かけがえのない場所になるだろう。