日本の美しい町を旅する。

多層な歴史に魅了される四国の玄関口、高松へ。後編July 21, 2024

その土地でしか味わえない食や、ものづくりに出合うことは、旅における大きな楽しみのひとつ。さらに、その町に暮らす人たちが織り成すカルチャーに触れられれば、より一層、旅の思い出が心に刻まれるもの。訪れたのは、3年に1度開催される現代アートの祭典『瀬戸内国際芸術祭』の入り口であり、瀬戸内海の島々へ渡るフェリーの発着場所でもある高松。晴れの日が多く、温暖な気候のため、旅をしやすい町だ。工芸や自然、アート、食……。見どころのスポットを『まちのシューレ963』の店長・谷真琴さんが教えてくれた。この記事は香川を旅した後編です。前編はこちら

24の写真で辿る、美しい暮らしのある町・高松。

24の写真で辿る、美しい暮らしのある町・高松。
四国で唯一、菓子木型を作る香川県伝統工芸士・市原吉博さん。お茶文化のある高松ならでは。細かな細工に驚嘆する。
24の写真で辿る、美しい暮らしのある町・高松。
市原さんの木型を使って和三盆と練りきりづくりを体験できる『豆花』(高松市花園町1−9−13)。英語にも対応。
24の写真で辿る、美しい暮らしのある町・高松。
手染めによる草木染を施した木綿糸を使って、かがり技法で作られる伝統工芸、讃岐かがり手まり。
24の写真で辿る、美しい暮らしのある町・高松。
もともとは幼稚園だった『讃岐かがり手まり保存会』(観光通2−3−16)の建物。ここで草木染も行っている。ショップでの買い物のほか、工房見学も可能。
24の写真で辿る、美しい暮らしのある町・高松。
谷さん推薦の宿泊施設『穴吹邸』(城東町1−7−15)のライブラリー。個人邸を一棟貸しに改装。1組限定。9名まで。
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食事はダイニングルームで。1泊2名朝食付き¥180,000〜。薪のサウナもある。
24の写真で辿る、美しい暮らしのある町・高松。
日本一長いといわれるアーケード商店街。
24の写真で辿る、美しい暮らしのある町・高松。
『ジョージ ナカシマ記念館』(牟礼町大町1132−1)の、本人をはじめ錚々たるゲストがサインを残した、貴重な梁。
24の写真で辿る、美しい暮らしのある町・高松。
桜製作所に併設された『ジョージ ナカシマ記念館』では、貴重なオリジナル作品を展示。ウッドワーカーであるナカシマのものづくりの哲学に触れられる。
24の写真で辿る、美しい暮らしのある町・高松。
老舗和菓子店『くつわ堂総本店』(片原町1−2)の喫茶。名物スイーツ、生クリームを使った自家製サバヨンクリーム¥935。
24の写真で辿る、美しい暮らしのある町・高松。
その店内には、猪熊弦一郎の絵が飾られ、桜製作所の家具が置かれている。
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玉藻公園(玉藻町2−1)のお堀で鯛への餌やり体験が楽しめる城舟体験の乗り場。
24の写真で辿る、美しい暮らしのある町・高松。
「高松琴平電気鉄道(ことでん)」は、地元の人の足になっている。
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昼食のおすすめは『北浜えびす 海鮮食堂』(本町103−5)。海を眺めながらボリュームたっぷりの海鮮を食べられる。
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高松港から海へのびる防波堤。その先端に赤いガラス灯台があり、せとしるべの愛称で呼ばれている。谷さんの散歩道。
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『本屋ルヌガンガ』(亀井町11−13)では購入した本を店内でも読める。
24の写真で辿る、美しい暮らしのある町・高松。
獅子舞の胴体部の布、油単を主に染めている、讃岐のり染の『大川原染色本舗』(築地町9−21)。小物類も販売。
24の写真で辿る、美しい暮らしのある町・高松。
油単を染めるためののり置きをする。
24の写真で辿る、美しい暮らしのある町・高松。
『牟礼源平広場』(牟礼町牟礼2774)にあるイサム・ノグチの遊具彫刻。
24の写真で辿る、美しい暮らしのある町・高松。
立ち寄り湯『仏生山温泉』(仏生山町乙11 4−5)。この地域に暮らしを楽しむための小さな個人店が増えつつある。
24の写真で辿る、美しい暮らしのある町・高松。
谷さんいち押しのうどん店『おうどん 瀬戸晴れ』(牟礼町牟礼2694−1)。
24の写真で辿る、美しい暮らしのある町・高松。
屋島山上から、開運を願って投げられる土でできた皿、かわらけ。
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山肌にある庵治石の採掘場。庵治石の採掘・加工は分業で行われる。
24の写真で辿る、美しい暮らしのある町・高松。
『まちのシューレ963』の食品コーナー。お土産になる香川県産のものも揃う。

The Guide to Beautiful Towns_香川

伝統工芸、本、アート、モダンデザインが混在。

“うどん県”の愛称で知られる香川県。その県庁所在地である高松は、江戸時代からの古い町並みも残る城下町だ。けれど、その歴史はもっと古い時代に遡る。マンホールの図柄になっているなど、町のあちこちの意匠に使われているのが源平合戦の名場面。今や観光名所である屋島は、平家が拠点を構え、戦いの舞台となった場所だ。

そのすぐそばで生まれ育った、今回の案内人『まちのシューレ963』の店長・谷真琴さんは、屋島の山容や山上からの眺めが、原風景だという。

「山上が平らなテーブルマウンテンなんです。歩いても行ける距離に家があるので、小さな頃から屋島を見て天気を判断。山上にもよく登りました。わざわざタンクで海水をあげている、全国でも珍しい山の上の水族館もあります。2022年には屋島山上交流拠点施設『やしまーる』もできて、一大観光名所に。でも、ここから眺める瀬戸内の風景は今も昔も変わりません。女木島や男木島、小豆島など多島が重なり合い、天気のいい日には瀬戸大橋まで見渡せます。海が近くにあること。それは、私の一部をつくっているといえます」

一度は県外に出て、また戻ってきた谷さんいわく、高松は暮らしも旅もしやすい町とのこと。

「香川自体が日本で一番小さい県なので、高松もコンパクト。フェリーや鉄道といった交通機関がギュッと凝縮されていて、起伏が少ないので、自転車や徒歩でもまわりやすい。気候も温暖で人の気質も穏やか。うどんは安いし、おいしいものもたくさんあります」

そのおいしいもののなかでも、驚きを与えてくれるというのが、ナチュラルワインとクラフトビールと料理を楽しむ店『乍』だ。

「店主がセレクトしたナチュラルワインに合う有機食材を使った創作料理を提供してくれます。私はおまかせで頼むことがほとんどです。うちの店で展示をしてくれる作家さんを連れていくことが多いのですが、器にもこだわっていて、みなさん満足してくれます」

その食事のあとは『珈琲と本と音楽 半空』へ行くのが定番。

「ここと『茶論半空』の2店舗があり、オーナーの岡田陽介さんがとにかく面白い方なんです。特に『珈琲と本と音楽 半空』では、文学にちなんだカクテルなどお酒の種類が豊富で、午前3時までコーヒーやハーブティーを飲むことができるのも嬉しい。どちらも旅の合間にひとりで行って過ごすのにも、最適な場所だと思います」

また、高松を歩いていると、本が身近にあることにも気づく。『半空』にはもちろん、『乍』にも大量の本や漫画が置かれている。そして、半径1㎞圏内にユニークな棚をつくる新刊書店『本屋ルヌガンガ』や、大型の『宮脇書店』、古本の『なタ書』『YOMS』『不二書店』など、個性的な本屋がめじろ押し。それだけ町の人に本を読む文化があるという証明でもある。

「書店以外に図書館もたくさんあって、どこに返却してもいいので便利。移動図書館も充実しています。また、美術もすぐ手が届くところにある。猪熊弦一郎さんやイサム・ノグチさんといった世界的なアーティストがいて、家具ではジョージ・ナカシマさんがいる。彼らの作品を発表する場もあり、町の人は知らないうちにそれを湯水のように浴びているんです。そんな環境は稀なのだと、私も一度、外に出てから気づきました」

その要因は、1950年から74年まで香川県知事を務めた金子正則の功績が大きいという。

「“政治とはデザインなり”と言った人で、彫刻家のイサム・ノグチや流政之を高松に招聘してアトリエを構えてもらったり、その流のすすめで来日したジョージ・ナカシマが高松の木工所、桜製作所と家具づくりを進めたり。香川県庁舎東館の設計を丹下建三に依頼したのも、讃岐うどんを特産品として広めていったのも彼です」

源平合戦や桃太郎伝説、大名家があったことで生まれた伝統文化とモダンデザイン。小さな町ながら、高松には積層する歴史があり、それらが残した文化が、現代にも色濃く影響を与えている。

「海からの恵みに加えて、讃岐のり染や、かがり手まり、イサム・ノグチが驚嘆した庵治石の加工技術、ジョージ・ナカシマが愛した讃岐民具連の木工。それだけでなく『まちのシューレ963』でも扱っている、境知子さん、境道一さんらの陶芸や、金子まゆみさんのガラス作品、庵治石の粉を混ぜた傷がつきにくい漆器など、新しい工芸も生まれています。さらに、ちょっと足を延ばせば、仏生山温泉を中心に、個性的な店が次々とオープンしている仏生山エリアもあります。コンパクトにまわれるなかにも、さまざまなテーマがある。それが、高松の魅力です」

谷 真琴 『まちのシューレ963』店長

塾講師や資料館勤務を経て、オープンの半年後から店に入る。2014年に店長に就任。神戸阪急本館にある『まちのシューレKOBE』と行き来しながら、作家を招聘したり、企画を立てたりと、多忙な日々を送る。

 谷 真琴
 
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東京から高松空港まで約1時間15分。市内へはリムジンバスが便利。高松駅へは山陽新幹線岡山駅で乗り換え。1400本もの松がある栗林公園や、お堀に鯛がいる史跡高松城跡玉藻公園など、史跡も多く残る町。中心部に位置する高松中央商店街のアーケードの長さは、なんと全長2.7㎞。雨の日でも楽しめる。

photo : Tetsuya Ito illustration : Junichi Koka edit & text : Chizuru Atsuta

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