美しい暮らしのある、日本の町を旅する

九州の真ん中、熊本。都市と自然とが溶け合う場所。__後編 【美しい暮らしのある、日本の町を旅する】July 30, 2023

70万以上の人口を抱える市街地に、美しい水と緑が溢れる熊本。市民の水道水を100%地下水で賄う、国内でも稀有な場所だ。熊本城のすそを市電と車が頻繁に行き交う街で、地元の人々が食堂のように出入りするのが『諸国家庭料理PAVAO』。店主の平沢えりなさんが、熊本市中心部と周辺の歩き方を教えてくれた。この記事は熊本を旅した後編です。前編はこちら

24の写真で辿る、美しい暮らしのある町・熊本。

交通局前電停近くの歩道橋から。朝日が差す路面電車は、通勤通学客で満員。
交通局前電停近くの歩道橋から。朝日が差す路面電車は、通勤通学客で満員。
今春オープンした『タトミヤ 江津湖』(熊本市東区江津1‒31‒11)。9 時開店で、江津湖散歩後のモーニングは最高。
今春オープンした『タトミヤ 江津湖』(熊本市東区江津1‒31‒11)。9 時開店で、江津湖散歩後のモーニングは最高。
『POMBO』で出迎えてくれたアメリカ人シェフ、チェイス。妻とこの店を営む。
『POMBO』で出迎えてくれたアメリカ人シェフ、チェイス。妻とこの店を営む。
『熊本国際民藝館』(北区龍田1‒5‒2)は、九州の民藝の拠点として創立し58年。
熊本国際民藝館』(北区龍田1‒5‒2)は、九州の民藝の拠点として創立し58年。
小代焼や肥後まりといった県産の民芸品が揃うほか、直接触れる展示品も多い。
小代焼や肥後まりといった県産の民芸品が揃うほか、直接触れる展示品も多い。
『工藝きくち』で菊池さんの話を聞く。
『工藝きくち』で菊池さんの話を聞く。
街中の『グラックコーヒースポット』(中央区城東町5‒52)では、自家焙煎のスペシャルティコーヒーをアイスで。
街中の『グラックコーヒースポット』(中央区城東町5‒52)では、自家焙煎のスペシャルティコーヒーをアイスで。
元編集者が営む『vertigo』(中央区南千反畑町1‒5‒3F)では器などの展示が。
元編集者が営む『vertigo』(中央区南千反畑町1‒5‒3F)では器などの展示が。
世界各国のカルチャーやクリエイティビティが宿るものを、ミックスして提案する『LOTUS』(中央区上通町10‒7)。
世界各国のカルチャーやクリエイティビティが宿るものを、ミックスして提案する『LOTUS』(中央区上通町10‒7)。
無添加・無化調の中華そばが人気の『中華そばSANYO』。通し営業がうれしい。
無添加・無化調の中華そばが人気の『中華そばSANYO』。通し営業がうれしい。
花屋カフェ『ティーフラワーズ』(西区二本木5‒3‒6)はタコライスが美味。
花屋カフェ『ティーフラワーズ』(西区二本木5‒3‒6)はタコライスが美味。
『長﨑次郎喫茶室』で路面電車を眺めつつコーヒーを。固めのプリンもおすすめ。
長﨑次郎喫茶室』で路面電車を眺めつつコーヒーを。固めのプリンもおすすめ。
『長崎次郎書店』は坂口恭平さんほか県内作家の小説や、水俣病関連書籍も充実。
『長崎次郎書店』は坂口恭平さんほか県内作家の小説や、水俣病関連書籍も充実。
金峰山の中腹、作陶家・平沢崇義さんのアトリエ『すゑもの亀屋』(住所非公開)。
金峰山の中腹、作陶家・平沢崇義さんのアトリエ『すゑもの亀屋』(住所非公開)。
端正で使いやすい器は、普段使いにぴったり。先々のオープンアトリエは未定のため、メールで問い合わせを。
端正で使いやすい器は、普段使いにぴったり。先々のオープンアトリエは未定のため、メールで問い合わせを。
スイーツを食べに『エンデレアコーヒー京町』(中央区京町2‒12‒75)へ。県南の人気店が市内に構えた支店。
スイーツを食べに『エンデレアコーヒー京町』(中央区京町2‒12‒75)へ。県南の人気店が市内に構えた支店。
坂口恭平さんの私設美術館『Museum』(中央区練兵町45‒2F)は、登録有形文化財である県内最古の貸しビルにある。1 つ上階には妻・フーさんの店も。
坂口恭平さんの私設美術館『Museum』(中央区練兵町45‒2F)は、登録有形文化財である県内最古の貸しビルにある。1 つ上階には妻・フーさんの店も。
日常風景を描いた絵が心を打つ。と思えば抽象性の高い作品も並んでいたり、作風がどんどん変わる様子も楽しみたい。
日常風景を描いた絵が心を打つ。と思えば抽象性の高い作品も並んでいたり、作風がどんどん変わる様子も楽しみたい。
新町電停の隣に立つ『クラシク』。13時オープンで、食事にワイン、コーヒー、スイーツと一通り楽しめて使い勝手がいい。路面電車の走る音をアテに一杯。
新町電停の隣に立つ『クラシク』。13時オープンで、食事にワイン、コーヒー、スイーツと一通り楽しめて使い勝手がいい。路面電車の走る音をアテに一杯。
洋服屋の軒先にある『ドラゴカフェアット』(中央区南坪井町5‒21)のジェラート(¥550~)は添加物不使用。写真はフルーツヨーグルトとキャラメル。
洋服屋の軒先にある『ドラゴカフェアット』(中央区南坪井町5‒21)のジェラート(¥550~)は添加物不使用。写真はフルーツヨーグルトとキャラメル。
県産食材を中心とした創作中華『バルール』。平日でも満席必至なので予約を。
県産食材を中心とした創作中華『バルール』。平日でも満席必至なので予約を。
『古書 汽水社』(中央区城東町5‒37‒1F)はレコードの品揃えもいい。買い取りも。
『古書 汽水社』(中央区城東町5‒37‒1F)はレコードの品揃えもいい。買い取りも。
蔵書はおよそ1 万冊。雑誌や文庫もあり文化芸術、哲学思想、絵本、文学など、幅広いジャンルがバランスよく揃う。
蔵書はおよそ1 万冊。雑誌や文庫もあり文化芸術、哲学思想、絵本、文学など、幅広いジャンルがバランスよく揃う。
『PAVAO』にて。この日は春巻き、冷奴などのアレンジメニューとワインを。
『PAVAO』にて。この日は春巻き、冷奴などのアレンジメニューとワインを。

The Guide to Beautiful Towns_熊本

震災から7年を経て、発見で満ち溢れる街に。

 おいしいものに事欠かない熊本で、ローカルの皆が「とっておき」と口を揃える店が『諸国家庭料理PAVAO』。「行ったことがある国の料理はアレンジして、ない国の料理は本を読んで想像しながら自分らしく作っています」と話すのは店主の平沢えりなさん。エスニックを中心に仕立てる野菜たっぷりの品々は、街中で働く若者から圧倒的な支持を集める味。気づけばナチュラルワインを片手に両脇の客と挨拶を交わし、店を出る頃には友人になっていることもしばしばで、「人間交差点」と呼ばれる所以。その中心にいる平沢さんは「とにかく水がいい」と、熊本の魅力を語り始めた。

「水のおかげでおいしい野菜が育って、ポテンシャルが高い素材を使って料理ができるのは本当に嬉しい。暮らしていると慣れてしまうけれど、綺麗な水があちこちで湧いていることで、街が健やかな空気で溢れているように感じる」

 全国的には阿蘇の水源が知られるが、街に程近い江津湖も湧水池。周辺をランニングする人、水遊びをする子ども、水面に映る夕焼けを眺める人……、美しい湖が暮らしの一部に溶け込んでいる。

「あと手仕事を扱う店と本屋も充実していますよね。20歳のときから通う『工藝きくち』は大切な場所。民芸品を扱う近頃の店のセレクトとは違い、何年も作り手の元に足を運んだからこその、説得力のあるもので棚が埋まっています」

 店主の菊池典男さんは民藝運動の流れを汲み、今日までの民藝の歴史を見守り続ける数少ない人だ。

「全国的に見てもきっと貴重な店だと思います。それに民藝といえば、意外と知られていないけれど『熊本国際民藝館』も楽しい場所」

 熊本の本屋といえば、『橙書店』は本好きに知られる名店。そして古本屋が多い並木坂に構える『古書 汽水社』は、平沢さんがよく足を運ぶ本屋のひとつ。

「まず、素敵な古本屋が街の中心部にあること自体がいいですよね。それに『汽水社』は、古本に抵抗がある人でも気にならないほど綺麗な状態で売っているんです。アート系が充実したセレクトや、店先の本棚で通りすがりの人が立ち読みしている光景も好き」

 街の中心部から路面電車で10分ほどの距離にある『長崎次郎書店』も、旅人に薦めたい書店だ。

「上通アーケードにある『長崎書店』の本店である『長崎次郎書店』は、建物がとにかくクラシック。それでいて地域の書店としての役割をしっかり果たしていると思います。一度閉店してしまったけれど、再開したときは本当に嬉しかった。上階の喫茶室は当時の内装を残しているから、雰囲気もそこから見える景色も素晴らしい。著名な作家や漫画家たちが立ち寄るのも頷けます。どの書店も個性的なんです」

 ほかにカルチャースポットとして立ち寄るべきは、様々な顔を持つアーティスト・坂口恭平さんの私設美術館『Museum』。

「あるときは作家、あるときは画家、あるときはミュージシャン。そんな彼の存在自体が稀有なもので、熊本にいてくれてありがたい人。経済のサイクルを自分で生み出して動かして、周りの人にいい循環を生み出そうとする生き方は、いつ会っても変わらないし尊敬できる。だから彼の絵は素敵だと思うし、せっかくだから直接観に行ってほしいです。彼もたまに、うちの店に寄ってくれます」

 平沢さんの『PAVAO』がある並木坂近くには、熊本にナチュラルワインを浸透させた『ワインショップ クルト』や、『クルト』のワインを楽しめる『バルール』『中華そばSANYO』も軒を連ねる。上通アーケードから続くエリアで歩きやすく、平沢さんが県外の人を案内したい店も多い。

「もう何年も通い続けている『LOTUS』は、〝ライフスタイルショップ〞という言葉を耳にする前から、衣食住を提案しているセレクトショップ。世界各国のスタイルやカルチャーをミックスした店づくりに、常に刺激をもらっています。少し休憩したいときには『グラックコーヒースポット』へ。コーヒーがおいしいのはもちろん、古民家を改装した建物も趣があります。『ドラゴカフェアット』は大人も子どもも立ち寄りやすいオープンな雰囲気のジェラートショップ。素材を大切にしているし、味も間違いない」

 ただ、紹介した店にとらわれず、街を気ままに巡ってほしいとも。

「2016年に起きた熊本地震はとても悲しいことだったし、景色も人も大きな変化を余儀なくされました。でもそれによって生まれた繋がりや絆は確かにあって、ローカルの輪が広がったことも事実。いままさに街が元気になっている最中だから、歩くと発見があって、とても楽しいんじゃないかな」

平沢えりな 『諸国家庭料理PAVAO』店主

1978年、温泉地でもある県南の日奈久町生まれ。2008年、『諸国家庭料理PAVAO』をオープン。営業は木~土曜の夜のみ。夫は陶芸家の平沢崇義。店での器使いも楽しみたい。▷熊本市中央区南坪井町1‒9‒2F

平沢えりな
 
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今春リニューアルした阿蘇くまもと空港からバスに乗り40分ほどで、市街地中心部の通町筋に到着。九州新幹線で熊本駅で降りた際は、通町筋へは路面電車の熊本市電A系統を。飛行機からは阿蘇山、市電からは熊本城と、旅のプロローグにふさわしい美しい景色を見逃さずに。市街地内の移動は市電が便利。

この記事は熊本を旅した後編です。前編はこちら

photo : Shinnosuke Yoshimori illustration : Jun Koka edit & text : Yoshiko Otsuka

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