季節の花と緑を贈る、12か月の歳時記。

キク、コチョウラン…。平井かずみさんが選ぶ、11月の贈り花。November 03, 2024

冬支度がスタートし、植物が色づいてくる時季。

霜が降り始める頃を表す霜月は、秋の終わりであり、冬の始まり。冬の気配を感じる立冬を過ぎると、虫や動物たちも冬眠の準備に入る。冷え込む日も増えてきて、花もだんだん少なくなってくるが、この時季が旬といえるものも。日本の国花ともいえるキクもその一種だ。

 


キク
Chrysanthemum morifolium

Consolida ajacis
切り花生産量トップクラスで、秋を象徴。
科名/キク 原産地/中国。日本には奈良時代に薬として渡来してきた。9月9日に行われる重陽の節句では、花びらを浮かべた酒を飲むなどして長寿や無病息災を願う。江戸時代になると庶民も楽しむようになり、熱狂的なブームを巻き起こし、多種な品種が生まれた。11月もまだまだ見頃。「仏花として親しまれている花ですが、枝状に花を咲かせるスプレーマムなどはとても愛くるしい。もちろん花持ちもいいし、邪気を払うといわれています。花が少なくなる晩秋に楽しんでいただきたいです」
 


バラの実
Rosa canina

Consolida ajacis
体が縮こまりがちな季節に活動を促す赤を。
科名/バラ 原産地/北半球の各地。花が咲いたあとでも楽しめるのが、バラが愛される理由のひとつ。ルビー色の実はローズヒップとも呼ばれ、色がなくなってきた季節にほっこりとした優しさを与える。直径15㎜程度の実がつく、トゲの少ないセンセーショナルファンタジーや、鈴のように連なるスズバラ、直径5㎜程度の小さい実がつくノバラなどが代表的。「冷たい風が吹いてくる頃に赤い実を見ると、すごく温かい気持ちになります。眺めて和んでほしいと願いながらバラの実だけのブーケを」
 


キイチゴの葉
Rubus palmatus

Consolida ajacis
グラデーションの紅葉が美しい枝もの。
科名/バラ 原産地/ヨーロッパ、アフリカ、アメリカ、西アジア。手のひらを広げたような形をした大型の葉っぱ。春から夏にかけてはみずみずしい緑色だが、秋が深まってくるときれいに紅葉をする。「赤の部分があったり、オレンジや黄色の部分があったりと、グラデーションで紅葉していくんです。その様子がとても美しくて、自然のメカニズムにほれぼれしてしまいます。紅葉した枝葉をお渡しすることで外の風景を家に持ち帰っていただき、たっぷりと季節感を味わってもらいたいです」
 


セルリア
Serruria florida

Consolida ajacis
ふわふわした雪を連想させる、南国の花。
科名/ヤマモガシ 原産地/南アフリカ。外側の白い花びらのように見えるのは実は苞葉。時間が経つにつれ、中央の花がピンク色に変化していく。上品な花姿だが、熱帯地方出身なので生命力は強い。ブライダルフラワーとしても人気が高い。「南の国のネイティブフラワーなのですが、紅葉した葉と合わせるだけで季節が整います。外側の苞葉はけっこう固くてオブジェに近い感覚。そのなかでもブラッシングブライドという品種は、見た目が雪をイメージさせるので、冬に向かっていく時季に似合うのでは」
 


コチョウラン
Phalaenopsis aphrodite

Consolida ajacis
花持ちがいい気品のある姿は、贈り花の定番。
科名/ラン 原産地/東南アジア、南アジア、台湾、オーストラリア。着生ランの一種で、長い枝に10〜15個の花を咲かせる。胡蝶蘭と記されるように、蝶が舞う姿を思わせる優美さがある。花持ちがよく切り花でも長く楽しめる。また、花びらの奥に花粉がついているので、部屋にあっても花粉が落ちる心配が少ない。「開店祝いのイメージがありますが、弓形に垂れ下がり、切り花にするとすごくおしゃれなんです。一輪でも様になります。カラーバリエーションが豊富で贈る相手に似合う色を選ぶ楽しみも」

平井かずみ Kazumi Hiraiフラワースタイリスト

草花が身近に感じられる、暮らしに根付いた日常花を提案。東京・恵比寿のアトリエ「皓SIROI」を拠点に、日本全国で花の教室をはじめとしたワークショップや展示を開催。著書に『あなたの暮らしに似合う花』『花のしつらい、暮らしの景色』(ともに扶桑社)など。

illustration : Shinji Abe (karera) edit & text : Wakako Miyake
参考文献:『花屋さんで人気の469種 決定版 花図鑑』(西東社)、『花の名前、品種、花色でみつける 切り花図鑑』(山と溪谷社)

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