イザベル・ボワノ、日本の手仕事を訪ねる旅。
大阪・富田林 堺の白掛や三島手の陶器。岩や砂、深い海を感じる、土着の色合い。イザベル・ボワノ、日本の手仕事を訪ねる旅。November 09, 2024
海沿いの鎌倉、とある店で八田亨さんの陶器に初めて出合い、惹かれたのは偶然ではないはず。それまでの好みは、淡い色調の薄い陶器に傾きがちだった。しかし、彼の器の素朴さ、時に鉱物のように暗く、時に閃光のようにきらめく色は、岩や砂、空が映る海の深さを連想させた。美しい模様があしらわれた三島手や、土の力強さを映した白掛や黒掛の質感は素晴らしかった。
八田さんは土づくり、ろくろ、釉薬、削り、すべての工程で探求を重ねているが、大阪・堺にある穴窯での月に一度の焼成こそ、彼の制作プロセスの肝だろう。念願かなって穴窯焚きに立ち会うことができたのだが、この体験は強烈で忘れがたいものだった!
40時間ずっと火を絶やさないようにするため、3人体制で監視するほど管理は難しい。1回で焼き上げる作品は500〜600個にものぼる。朝から翌日の夕方まで窯は焚かれ、私は、ただただ火を維持する過程を見つめた。炎が力強く燃え上がる様は圧巻で、誰もが冷静に落ち着いて作業をしていたけど、そこにはある種の緊張感が漂っていた。このドラマチックな緊張感を、私は、八田さんがろくろを回したり、釉薬をかけたりしているときにも感じた。実に軽快で確かな動きで、手元はリラックスしているように見えるのに、常に仕上げの結果を気にかけ、失敗は許されない、もっといいものが作れる、と迫力を放っていた。これほどの才能とノウハウを持っていても、現状に満足せず模索を続ける姿に心打たれた。
八田亨Toru Hatta
八田さんは2003年に陶芸家として活動開始。赤土の上に白い化粧泥をかける「白掛」や、鉄分の多い泥を素地に施す「黒掛」といった独自手法、自然釉、三島手などを用いる。2016年に富田林に自宅兼工房を、2022年には堺に穴窯「くすのき窯」を設置。東京・新木場『CASICA』、京都・二条『Sophora』(11/15〜12/3個展)、鎌倉『うつわ祥見KAMAKURA』などで取り扱いあり。Instagramは @toru_hatta 。
Isabelle Boinot
フランス西部の田舎町、アングレーム在住のアーティスト、イラストレーター。繊細なタッチと柔らかな色使いが魅力。本誌ではパリを独自の視点で切り取った「パリいろいろ図鑑」を連載中。著書に『パリジェンヌの田舎暮らし』(パイ インターナショナル)など
illustration : Isabelle Boinot