イザベル・ボワノ、日本の手仕事を訪ねる旅。
京都・浄土寺の鍛金の銅製やかん。銅の古艶によって味わいが増す、完璧な実用品。イザベル・ボワノ、日本の手仕事を訪ねる旅。November 07, 2024
金工作家の中根嶺さんにアポイントがとれたとき、本当に素敵なアトリエに行けると、ワクワクした! 向かう道すがら素敵な場所にも遭遇した。近くに小さな運河があり、たくさんの木々や植物が心地よく、詩的な散歩道をつくっていた。いざアトリエに入ると、センス良く整えられたその空間は、時が止まっているかのようで、道具と作品すべてがくつろいでいた。
銅や真鍮などの金属をメインに、やかんやカトラリー、照明器具などの暮らしの道具を制作する中根さん。鍛金という技法で、型を使わず、金属を熱して叩いて成形する。「硬い」素材を扱っているのに、完成品は驚くほど繊細でしなやか。バーナーで燃やしたり、金鋸で切ったり、金槌で何度も叩いたり(甲高い音がする)、数多くの道具を操る姿と彼自身が放つ繊細さや穏やかさは、まるで対照的なのが面白い。ヤスリや糸鋸を使って力強く作業をしているのに、彼の身ぶりはただ優しく金属に触れているようなのだ。そして、精密かつ詩的なスケッチからは、デザインへの並々ならぬこだわりも垣間見えた。やかんは完璧なオブジェのように描かれていて、なるほど、使い込むほどに味わいが増す銅こそが理想的な素材なのだろう。パティナ(古艶)が出てくると、現代のものなのか、何世紀も時を経たものなのかがわからなくなる。加工ひとつで風合いはまるで変わるというが、そのゆらぎは、銅という素材に愛情を注ぐ職人の手からこそ生み出せる、美しさだ。
中根嶺Ren Nakane
アクセサリーなどを手がける〈ichi〉を経て、2014年〈Ren〉として活動開始した中根さん。2020年に現在の場所(左京区浄土寺下南田町36)へ工房を移転。大きな機械を使わず手作業にこだわる。結婚指輪や暮らしの道具、オブジェのほか木彫りも手がける。工房は展示場として不定期オープン。予約制で一般公開も。予約はHPから。工房もしくは展示会での受注のみ。nstagramは @ren_nakane 。
Isabelle Boinot
フランス西部の田舎町、アングレーム在住のアーティスト、イラストレーター。繊細なタッチと柔らかな色使いが魅力。本誌ではパリを独自の視点で切り取った「パリいろいろ図鑑」を連載中。著書に『パリジェンヌの田舎暮らし』(パイ インターナショナル)など
illustration : Isabelle Boinot