イザベル・ボワノ、日本の手仕事を訪ねる旅。
茨城・里美のホウキモロコシの箒。風になびく穂を思わせる、繊細でやわらかな線。イザベル・ボワノ、日本の手仕事を訪ねる旅。November 05, 2024
3年前に茨城・里美に移住してきた箒職人の横畠梨絵さんは、村の住民たちが耕作する畑の真ん中で、2区画のホウキモロコシを栽培している。昨年5月に会ったときは、ちょうど種まきをしているところだった。種まきをしてから土に出てくるまでは1週間ほどかかり、その後収穫までは約3か月。栽培、収穫、乾燥、選別、保管、綿糸の草木染め、そして箒の制作。すべて一人で行っているというから、相当な体力と集中力が必要なはず。きっとここに来てから纏うファッションも、生活のペースもガラリと変わっただろう。
乾燥したホウキモロコシの甘い香りが漂う、自宅2階の工房で作業を見学することができた。使うのは植物性の材料と、シンプルな道具をいくつか。穂の太さや長さごとに選別し、箒の柄を囲む茎を1本ずつ組み立てて束を作る。あぐらをかきながら、穂の束と綿糸で編み込んで固定していく。ひとつひとつの所作の緻密さには本当に感心した。すばやくこなす技術力は欠かせないだろうが、私はその技術の習得以上に、彼女は箒を通して、自然そのものを際立たせることを大切にしているとも感じた。たとえば、先端にかけての曲線にはホウキモロコシ本来の動きと、自然な色合いが表現されている。その形、色使い、穂に残された粒、風に撫でられたような動きを思わせる揺れが好きだ。どの箒にも、強さとしなやかさ、硬さと儚さが絶妙にブレンドされていて、使うたびに、この喜びを思い出せることが嬉しくなったほど。
横畠梨絵Rie Yokohata
アパレル業界を経て、箒屋で8年修業後、2021年に独立。茨城・里美にてホウキモロコシの無農薬栽培から一人で手がける、横畠さん。また、箒をまとめあげる糸は、草の色合いと調和するよう、自ら庭木で草木染めをしている。洋服箒、小箒など用途によって、大小さまざまに20種ほどがラインナップ。東京・中目黒『Nine Tailor shop』、秋田・楢山『blank+』、北鎌倉『morozumi』などで取り扱いあり。Instagramは @rieyokohata 。
Isabelle Boinot
フランス西部の田舎町、アングレーム在住のアーティスト、イラストレーター。繊細なタッチと柔らかな色使いが魅力。本誌ではパリを独自の視点で切り取った「パリいろいろ図鑑」を連載中。著書に『パリジェンヌの田舎暮らし』(パイ インターナショナル)など
illustration : Isabelle Boinot