イザベル・ボワノ、日本の手仕事を訪ねる旅。

石川・加賀の我谷盆。生の栗の木を彫り出した、力強くも素朴な風合い。イザベル・ボワノ、日本の手仕事を訪ねる旅。November 02, 2024

栗の割り板を生木のまま彫り出した、我谷盆。木目を考慮しながらノミだけで仕上げる森口信一さん。お茶を飲むときにぴったりなリバーシブルタイプ (右下) のほか、さまざまな形、色合いのトレーがずらり。生木は浅く、時を経た木や燻した木は渋く、風合いが異なる。
栗の割り板を生木のまま彫り出した、我谷盆。木目を考慮しながらノミだけで仕上げる森口信一さん。お茶を飲むときにぴったりなリバーシブルタイプ(右下)のほか、さまざまな形、色合いのトレーがずらり。生木は浅く、時を経た木や燻した木は渋く、風合いが異なる。

奈良の工芸店で森口信一さんが作った我谷盆を見つけたとき、木そのものの力強さと、素朴な美しさに心奪われた。エネルギーと生命力が放たれていて、作り手と木が互いに、最も美しく誠実な自分自身を見せ合って、対峙しているようだった。私が木製のアイテムを日常使いしていることもあってか、見て触れるだけで大地に根を下ろしたような、絶対的な安心感すら覚えた。

森口さんは、我谷盆発祥の地である石川・加賀に構えた『風谷アトリエ』と、京都・長岡京の自宅と工房を日々行き来する。京都のアトリエに訪問することになったのだが、嬉しいことに当日、桂駅まで車で迎えに来てくれた。到着すると、彼は広いアトリエの中のわずかなスペースで、木の幹をスツールに、角材を作業台にして、妖精のように木と向き合い始めた。木の形、大きさ、色がどのように変化するかは、仕上げに燻すかどうかで異なるようで、彼だけに感覚的パレットが見えているのだろう。実演しながら作業工程を熱心に説明してくれた。生の栗の木の丸太を割ること。その風合いを生かしながら、ノミだけで彫り出し一枚の盆に仕上げること。すべて日本語で理解するのは難しかったが、数センチ離れたところで作業を見ることが叶い、それがおそらく最善の説明だったと思う。10年以上前から右手が不自由だというにもかかわらず、道具を器用に扱う様、力強いその手つきを見て、いたく感動した。手が、彼の技術、我谷盆への愛、すべてを物語っている。

森口信一Shinichi Moriguchi

森口さんは1987年に拭漆を学んだあと、2000年より我谷盆の制作を開始。京都の自宅工房のほか、加賀市の山奥で『風谷アトリエ』(山中温泉風谷町口56)を主宰。我谷盆を後世に残すため教室も開く、数少ない職人。我谷盆は1965年にダムで水没した石川県我谷村にて、生活工芸品として作られていた盆。栗の丸太を割って縁をくり出し、ノミで平行に模様を彫る。奈良『空櫁』などで取り扱いあり。Instagramは @moriguta

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Isabelle Boinot

フランス西部の田舎町、アングレーム在住のアーティスト、イラストレーター。繊細なタッチと柔らかな色使いが魅力。本誌ではパリを独自の視点で切り取った「パリいろいろ図鑑」を連載中。著書に『パリジェンヌの田舎暮らし』(パイ インターナショナル)など

instagram.com/isabelleboinot

illustration : Isabelle Boinot

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