河内タカの素顔の芸術家たち。
芸術は大衆のものである、と提唱した 岡本太郎【河内タカの素顔の芸術家たち】Taro Okamoto / November 10, 2022
芸術は大衆のものである、と提唱した
岡本太郎
「天邪鬼(あまのじゃく)」はあえて人に逆らう言動をする人やひねくれた人のことを指す言葉ですが、岡本太郎もそうだったのかもしれないと考えてしまうのは、「今日の芸術は、うまくあってはならない。きれいであってはならない。ここちよくあってはならない。」「危険だ、という道は必ず、自分の行きたい道なのだ。」などと、日本の美術界において挑発的な言動を連発していたからに他ありません。その一方で、岡本の作品にはどれも並々ならぬ生命力が息づいていて、彼のそのような極端な反逆精神こそが創作の源にもなっていたとも考えられるわけです。
岡本太郎といえば、多くの人が条件反射的に1970年の大阪万博の際に制作された『太陽の塔』のことを思い浮かべるのではないでしょうか。当時の最先端と謳われた近未来的なパビリオンはすぐに取り壊されてしまったのに対して、高さ70メートルにも及ぶコンクリート製の巨大なモニュメントだけが、多くの人々による保存活動のおかげもあり、今も当時のままの姿で同じ場所にそびえ立っています。岡本が「原始と現代を直結させたような、ベラボーな神像」と呼んだその壮大な塔は、金色の円形の顔を持ち、左右には白色の腕が上向きに伸び、腹部には異なる顔が彫られ、稲妻のような赤い模様が施されており、今も圧倒的な存在感を誇っているのは誰もが知るところです。
しかしながら、そのモニュメントの真に驚くべきところは実は後ろから見た姿にあり、そこには不気味とも言える白い目をした黒い顔の太陽と黒い放射線が張り付いているのです。これがなんの象徴であるのかは、同時期に岡本が制作していた幅30メートルもある壁画『明日の神話』について語る必要があります。第五福竜丸が被爆した際の水爆の炸裂の瞬間がモチーフとなったこの巨大な絵は、画面全体がかなりおどろおどろしい雰囲気で、その中央に強烈な放射能の炎によって焼かれる人が描かれています。そして、それが示唆するのは、あの黒い顔が原爆か水爆のシンボルとして岡本が啓示をしていたのではないかということです。ちなみに、この壁画はメキシコで制作されたものの長らく行方不明になっていた作品で、それがほとんど奇跡的に発見された後、オリジナルの姿に修復され、渋谷の駅に常設されることになったという数奇の運命を辿った作品でもあります。
初めて原爆が使用された戦争と高度成長期の昭和の時代を、まさに全速力で駆け抜けたのが岡本太郎でした。18歳という若さでパリに渡った岡本は、それから約10年の間、ピカソや抽象表現に影響を受けながら画家としてのアイデンティティを確立していきます。当時描いて持ち帰った作品は、戦火によってすべてが残らず焼失してしまったものの、パリのゴミ集積場に捨てられた岡本の作品と思われる3点が、なんと一人の人物によって保管されていたのです。それらは現在行われている大規模な巡回展で観ることができるのですが、岡本とも交流があったジャン・アルプの作品を思わせる抑えた色と造形が素晴らしく、そのような初期の抽象絵画をもっと見てみたかったという気持ちに駆られてしまうような作品です。
そういえば、岡本は自分の絵を頑なに売ることをせず、その多くを手元に残していたということも今回の展覧会で知りました。というのも、岡本には「芸術は大衆のものである」という強い信念があり、いったん売ってしまえば作品を共有できないではないと考えていたといいます。だからこそ、『太陽の塔』を筆頭に、公共の場で恒久的に展示できる彫刻や壁画を精力的に制作し、人々の生活の中で生き続けるような作品を数多く残したのです。まさに人々へ向けての作品であったわけですが、そのような背景を知ってしまうと、岡本のあの熱くまっすぐな姿勢がいかに偽りのない真剣なものだったのかが窺い知れ、そんなところが人々を魅了し、世代を超えて今もなお愛され続けているのだろうなと思ってしまうのです。
展覧会情報
「展覧会 岡本太郎」
会期:2022年12月28日まで開催中
会場:東京都美術館
住所:東京都台東区上野公園8−36
<巡回予定>
愛知県美術館:2023年1月14日〜3月14日
https://taro2022.jp