河内タカの素顔の芸術家たち。
スウィンギング・ロンドンを牽引したデザイナー、マリー・クワント【河内タカの素顔の芸術家たち】Mary Quant / January 10, 2023
スウィンギング・ロンドンを牽引したデザイナー
マリー・クワント
マリー・クワントの回顧展が、渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムで行われています。これはロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館で開催され、約40万人が訪れた話題の展覧会の巡回展。僕はロンドンで見ることができたのですが、クワント・ファッションに心酔していたイギリス・マダムたちが、半世紀以上も経った今、いかにも大切な思い出を思い起こすように、一点一点を慈しむかのように見入る姿はチャーミングで感慨深くもありました。
1960年代にロンドンで発祥し、その後世界中の若者文化に影響を及ぼした、「スウィンギング・ロンドン」と呼ばれるファッション・音楽・映画においてのムーブメント。この活気ある社会現象を起こしたのが、美大でデザインを学んだマリー・クワントで、彼女はザ・ローリング・ストーンズのメンバーや写真家のデビッド・ベイリーらとともに、当時のロンドンの若者たちの勢いや鋭い感性を反映させたスタイリッシュな人物として、その後世界レベルで大きな軌跡を残すことになっていくのです。
1930年に生まれたクワントは、大学を出て数年後の25歳の時に、自身のブティック『バザー(BAZAAR)』の一号店を、ロンドンのキングスロードにオープンさせます。ここで売られていたのは、クワント自らが着たいと思うような身体のフォルムに添った躍動感のある細身の洋服でした。老舗デパート「ハロッズ」で仕入れた生地を使った、パリ発のオートックチュールのデザインクローズとは明らかに趣の異なるフレッシュなデザインが、瞬く間に地元の若者たちを虜にしたのです。
クワントの名前が世界的に知られるきっかけとなったのが、後に「ミニスカート」と呼ばれるようになる“膝すれすれ”のスカートでした。当時、女子学生たちが身につけていたエプロン・ドレスにアイデアを得たクワントは、スカートの丈を少しずつ上げていき、かなり大胆なスタイルを作りあげたのです。彼女が作る洋服は、ストーンズらの音楽に合わせて身体を自由に揺すって踊る際に打ってつけのスポーティーさも人気の秘訣でした。ちなみにミニスカートの「ミニ」は、クワントが大好きだった英国車『Mini』から採用したと言われています。
ミニスカートの他にも、紳士服や軍服のテーラリングを女性ウェアに使ったり、ビニールやスポーツ用ユニフォーム素材を取り入れたり、スカート姿が当たり前の時代にパンツスタイルを流行らせたのもクワントでした。加えて、洋服のデザインだけでなく、ヴィジュアルを重視したブランディングを展開したのも彼女が最初だったのです。トレードマークとなる「デイジー・マーク」を使ったイメージ戦略をスタートさせるとともに、大量生産にいち早く着手したことが、アメリカに進出する際に大いに力を発揮することになります。
ロンドンでの自転車操業的なやり方ではアメリカのマーケットでは通用しないと十分わかっていたクワントと夫のアレキサンダー、そして友人で共同経営者のアーチー・マクネアは、大手百貨店チェーンや大手衣料メーカーへデザインを提供し、ひとつのデザインから数千点の洋服を量産するというやり方を取り入れました。その結果、クワントはアメリカで圧倒的な人気を集め、さらにはビューティープロダクトから生活雑貨にまでにおよぶ、ライフスタイル・ブランドとなっていくことになるのです。
クワントは、ロンドンの若者文化とストリートスタイルを取り入れながら、イギリスファッションのあり方を世界に知らしめたデザイナーであり、大学を出たばかりでプロとしての経験がなくとも、新しいスタイルを打ち出すリーダーになれることを自らの感性と才覚を持って証明したのです。彼女が半世紀前にデザインしたワンピースやドレスやジャケットは、今の時代の目で見ても新鮮でハッとさせられるものが多く、博物館の所蔵品だけでなく、イギリス全土から寄贈、あるいは貸し出しされたという貴重なアイテムの数々から、スウィンギング・ロンドンで湧いた当時の熱狂やセンセーションが今回の展示から感じられるのです。
展覧会情報
「マリー・クワント展」
会期:2023年1月29日(日)まで開催中
会場:Bunkamura ザ・ミュージアム
住所:東京都渋谷区道玄坂2-24-1 B1F
お問い合わせ:050-5541-8600
https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/22_maryquant/