河内タカの素顔の芸術家たち。
河内タカの素顔の芸術家たち。
イサム・ノグチIsamu Noguchi / May 10, 2021
石の持つ心を見つけようとしていた
イサム・ノグチ
イサム・ノグチは、舞台芸術、空間デザイン、建築、庭園、陶芸などを生涯に渡って精力的に制作したばかりか、家具や照明などを手がけたことでも広く知られている日系アメリカ人アーティストです。そのノグチの彫刻家として残した作品に焦点を当てた「イサム・ノグチ 発見の道」が東京都美術館で開催されています。
今回の展示では、光の彫刻として知られる「AKARI」をなんと150灯もゆっくりと点滅させるというスペクタクルな展示から始まり、2階フロアでは真っ赤な遊具彫刻『プレイスカルプチュア』を取り囲むように、折り紙からインスピレーションを得た金属の彫刻群、そして3階フロアは今回の最大の目玉となるニューヨークと香川県高松市牟礼(むれ)町のアトリエに常設されている石の彫刻作品の展示という構成となっていて、作品の間を縫って散策するように見て回ることができる魅力的な展示になっています。
おそらくノグチの名前を知らずとも、発売以来、一般に広く普及している「AKARI」は見たことがある人も多いはずです。「AKARI」は岐阜にある提灯の老舗メーカー「オゼキ」が製品化して以来、シリーズが200種類以上にも及ぶ照明器具なのですが、柔らかな光を放つこの軽やかなプロダクトに関してノグチはこんなことを言っています。
「僕は自分の作品に『AKARI』と名づけた。ちょうちんとは呼ばずに。太陽の光や月の光を部屋に入れようという意味から『明かり』という言葉ができ、漢字も日と月とで出来ている。 近代化した生活にとって、自然光に近い照明は憧れであり、和紙を透かしてくる明かりはほどよく光を分散させて部屋全体に柔らかい光を流してくれる。AKARIは光そのものが彫刻であり陰のない彫刻作品なのだ(オゼキ ホームページより)」と。
この「AKARI」と並行して、ノグチはシュルレアリスムやジャコメッティの影響が感じられるブロンズによる立体作品を精力的に制作していました。そして来日するたびに、京都の枯山水の庭園や茶の湯の作法など、日本の伝統や文化を学んでいくにつれ、「彫刻とはいったいなにか」ということを追求していった末に行き着いたのが自然石を使った彫刻で、特に晩年に取り組んだ石彫はノグチ芸術の集大成というべきものでした。
「イサムがいかに自然の中に気楽に自分を置いていたか、そして、その中にある自然そのものの魂をいかに愛したか、作ることよりも見えない石の眼を開き、語ることの出来なかった石の声を引き出すことに一生を懸けていた。イサムは作る人と言うより、石の持つ心を見つけることのできる術の人であった(「心友イサム・ノグチとともに」展図録より)」
これはノグチと長年深い親交があった画家の猪熊弦一郎の言葉です。石を彫り進め自分流の形にしていくことが、古代から現在にいたるまで東西の彫刻家たちのやりかたでした。それをあえて自我の主張でなく、自然石の声を聞きながら彫り進めてというスタンスに変わっていったことで、ノグチは石本来が持つ要素を生かそうとするという類例のない制作に挑んでいったというわけです。
そのようにして生まれた石の彫刻が常設されている高松市牟礼町のイサム・ノグチ庭園美術館には、150点あまりの彫刻作品と、移築した展示蔵や古民家の住居、晩年制作した彫刻庭園など、未完成の作品も含む様々な作品が設置されています。そこは周囲の四季や緑あふれる自然を感じながら、ノグチの宇宙に心ゆくまで浸れる特別な空間であり、まるでノグチがまだ制作をしているのではないだろうかというくらい、自然な状態に保たれていて、そこで石の声を聞いていたノグチの姿を思い描いてしまうはずです。
展覧会情報
「イサム・ノグチ 発見の道 Isamu Noguchi: Ways of Discovery」
会期:2021年4月24日(土)~8月29日(日)
会場:東京都美術館
https://isamunoguchi.exhibit.jp
※ 緊急事態宣言及び都における緊急事態措置等に基づき、施設休館の場合あり。