河内タカの素顔の芸術家たち。
ふくよかな絵で知られる南米の画家、フェルナンド・ボテロ【河内タカの素顔の芸術家たち】Fernando Botero / June 10, 2022
ふくよかな絵で知られる南米の画家
フェルナンド・ボテロ
南米コロンビア出身の画家といえば、日本ではおおかたこの人しか知られていないはずです。フェルナンド・ボテロ。今年90歳を迎えた現役の画家であるのですが、個人的にはまずそのことに驚いてしまいました。今現在東京で行われている展覧会「ボテロ展 ふくよかな魔法」(実に26年ぶりに日本国内で開催される大規模絵画展である)は、その多くが日本初公開となる全70点から構成された展示となっていて、知ってそうで知らなかったこの画家に対する新たな発見のある興味深い内容となっています。
ボテロ絵画を特徴づけているのは、丸くてぽっちゃりとした顔や身体、人だけでなく静物画にしても果物や楽器などふくよかに膨らませて描くというところにあります。この画家自身が太っているのかといえばそうでなく、本人の言葉によれば「ボリュームを表現することで、芸術的な美を表現することを目指している」のだそうです。同じようにボリューム感のある人物を描くことで知られる画家として、ルーベンスやピカソ、そして有元利夫もふっくらとした人物を描いていますが、ボテロの描く人や静物は、風船のように空気を入れて膨らましたかのようでもあり、遊び心とポップな色彩もあってユーモラスでどこか軽やかさがあるというのが前述した彼らのスタイルとの違いかもしれません。
アメリカの画家でイラストレーターでもあったノーマン・ロックウェルのような大衆性、またはアイロニーが感じられる風刺、そして小さな子供でも楽しめるような明快さがあり、小難しい現代アートと少し距離を置いたところで世界中に多くのファンがいます。ぼく自身も美術大学に入りたての頃には、ボテロの絵画や版画を通学途中のギャラリーのウィンドウ越しによく見かけていたので、当時の自分にとっても絵画の魅力や面白さをわかりやすく教えてくれた最初の画家であったのですが、同じスペイン語圏出身のピカソのラジカルさや面白さに自分の興味が移っていくにつれ、次第にボテロの影がだんだん薄くなっていったのです。
それでも、本当に久しぶりにちゃんと観ることのできたボテロの作品群は、有無を言わせずどれも魅力的なものばかりです。加えて、ボテロが中世イタリアの先駆的な画家として知られるピエロ・デラ・フランチェスカのことを若い時からずっと崇拝し、今もその気持ちが変わらないまま制作をしているということを解説で知り、ボテロに俄然興味を抱いてしまったのです。今回の展示にもそのピエロが15世紀後半に描いた2点組の傑作『ウルビーノ公夫妻の肖像』へのオマージュがあり、ボテロがこの作品に対していかに特別な気持ちと尊敬を抱きながら描いたかを想像してしまいました。他にも、現代風の洋服を着た少年時代キリストを抱いた『コロンビアの聖母』や世界初公開となる『モナ・リザの横顔』、縦2.4mもある一口だけかじられて小さな虫が顔を覗かせているボリューム感あふれる『洋梨』など力作が目白押しなので、是非とも会場に足を運んで包容力に満ちたボテロ作品をご覧になっていただきたいものです。
展覧会情報
『ボテロ展 ふくよかな魔法』
会期:開催中 〜2022年7月3日まで
会場:Bunkamura ザ・ミュージアム
住所:東京都渋谷区道玄坂2-24-1 B1F
https://www.ntv.co.jp/botero2022/
今後の巡回予定
名古屋市美術館 : 2022年7月16日(土)~9月25日(日)
京都市京セラ美術館: 2022年10月8日(土)~12月11日(日)