河内タカの素顔の芸術家たち。
河内タカの素顔の芸術家たち。
アルヴァ・アアルトThis Month Artist: Alvar Aalto / January 10, 2019
フィンランドの自然と共存するような建築や
家具を世に送り出したアルヴァ・アアルト
フィンランドが誇る建築と家具デザインの巨匠であるアルヴァ・アアルト。そのアアルトが38歳のときに建て(1936年に完成)亡くなるまでの40年間住み続けた「アアルト自邸」は柔らかい自然光に満ちた木のぬくもりが感じられる空間です。この二階建ての住宅はヘルシンキ郊外にあるムンキニエミという住宅地に建てられていて、道路から観ると窓も少なく閉ざされているようにも見えるのですが、いったん屋内に足を踏み入れるや庭に面した窓から柔らかい明かりが差し込み温かみに溢れた空間が広がっているのです。
一階のリビングルームにはゼブラ柄のファブリック仕様のランジチェア「アームチェア400タンク」とローテーブル、グランドピアノに上には妻の写真とポール・ヘニングセンによる紙製のデスクランプが置いてあり、その奥にアアルトが日々使っていた小さな書斎兼アトリエがあります。この小さな空間は「スキップフロア」と呼ばれる隠し部屋のような工夫がしてあるのですが、アアルトは会いたくない客が来るとこの部屋にこっそりと隠れていたというのです。また、このリビングの窓下に細い郵便受けのような小窓があるのも、北欧の長い冬の間は窓が凍り付き開閉ができなくなったり、開けたら開けたで一気に冷気が入ってくるためこの窓で調整していたからと現地で教わりました。
生涯一度も日本に来たことはなかったアアルトでしたが、この家は和風建築からの影響をかなり受けているのではないだろうかと思ってしまうほど、襖のようなスライドドアや和テイストの家具が機能的に使われていたりします。一方、椅子のデザインにおいて北欧を代表するような名作を生んだにもかかわらず、自身たちがずっと使い続けていた椅子というのが、一見この家のキッチンにそぐわない古風なものなのです。実はこの椅子、1924年に妻アイノと新婚旅行でイタリアに行った際に買いもとめたものらしく、彼らは愛着を持ちながらそれをずっと使い続けていたそうです。
戦後、プラスティックやスチールなど新しい工業素材が続々と生みだされ、多くの北欧モダンのデザイナーたちがその新しさに魅了されていったにもかかわらず、アアルトはというとフィンランド産の木材の可能性を追求し、長い冬の生活を心地よく過ごすために機能的でありながら温かみのある家具や照明などを生み出しました。湖の曲線からヒントを得た「サヴォイ・ベース」やサナトリウム用にデザインされた「パイミオチェア」など、考えてみれば彼の代名詞ともいえる優美かつ緩やかな曲線(ちなみに「アアルト」はフィンランド語で「波」を意味します)を用いてのフィンランドの自然やライフスタイルを踏まえた空間作りや家具は、自身が若くして手がけたこの自邸において実践されていたというわけなのです。
<展覧会情報>
『アルヴァ・アアルト もうひとつの自然』
2019年2月16日(土)~4月14日(日)
会場:東京ステーションギャラリー
ヴィトラ・デザイン・ミュージアムとアルヴァ・アアルト美術館の企画による国際巡回展で、ドイツを皮切りにスペイン、デンマーク、フィンランド、フランス、そして2018年には神奈川県立近代美術館で開催された。日本においては実に20年ぶりとなる個展となり、オリジナルドローイングや模型、家具をはじめとするプロダクトや写真など合計約300点が展示される。