ハートウォーミングな音楽／MUSIC FOR BETTER LIFE #3 February 2025February 09, 2025

　先日、〈MOBLEY WORKS〉の家具職人、鰤岡力也さんに話を聞く機会がありました。カントリーやシェーカーといったクラシックなアメリカンスタイルを独自にミックスした、“鰤岡さんのスタイル”としか表現できない、ウッディな自宅がインタビュー場所でした。

　その内容は誌面に譲るとして、インタビューの中で最も印象に残ったのは「薪ストーブに火を点ける時間が、一番幸せだ」という言葉でした。薪ストーブはただ部屋の気温を上げてくれるだけではなくて、遠赤外線効果で体が芯まで温まる……というふうなメリットはもちろん様々にあるわけですが、そんなことよりも、家の中に炎があって、薪が爆ぜる音が響くなか、ストーブの前に家族が身を寄せ合う風景を愛している様子でした。

　そして、その風景を知ってしまったら、大変な思いをして薪を調達したり、夏の間に汗だくで薪を割ったりすることも、鰤岡さんにとっては「なんてことないことなのだろう」と思えたのです。

　薪ストーブに限らず、いくらでも便利な方法があるなかで、あえてアナログな方法を選択し続ける人がいます。直筆で手紙を出し続けること、写真をプリントしてアルバムに残すこと、古いクルマに乗り続けること、レコードに針を落とすこと……費やす時間と労力を考えたら、無駄といえば無駄なのかもしれません。ただ、それらが生み出す心温まる時間を体験したら、無駄と思える作業など、取るに足らないものなのだろうと腑に落ちたのでした。今月は、ハートウォーミングな音楽を紹介します。

　昨年は、ヴィンテージ感のあるソウル&ファンクサウンドをたくさん聴いた1年でした。多くの音楽好きたちが年間ベストに挙げたClairo『Charm』はもちろんですが、私的ベストヴィンテージサウンドは、年末に駆け込みでLPを手に入れたElla Thompson『Ripple On The Wing』。オーストラリア・メルボルンを拠点とするフィメールシンガーで、Surprise Chefの面々らが参加した味わいのあるバンドサウンドと、スウィートな声の組み合わせが新鮮で聴き飽きません。プレイリストでは1曲目に「One More Step」を紹介しています。インドネシア・スラバヤのネオソウル・バンドThee Marloes による「Thank You」（10曲目）、フィンランドのシンガーEmilia Siscoの芳醇なヴォーカルを堪能する「Your Girl」など、今回のプレイリストには随所にソウルナンバーを散りばめました。

　2曲目「Assim」は、ブラジル出身のSSW、Lau Roの昨年の新譜『CABANA』から。ボサノヴァをベースにアンビエント、フォーク、エレクトロの要素がふんだんに盛り込まれた一枚で、幻のように儚いサウンドに、ノスタルジーを強く感じます。

　ハートウォーミングといえばフォーク〜カントリーサウンドも欠かせないということで、近年の新譜から印象深いナンバーを数曲ピックアップしています。オランダで農場を営みながら作品を発表するCatbug（4曲目）、男女3人組アメリカーナグループThe Wildwoods（5曲目）、先日発表されたばかりのSylvieの新譜（6曲目）など、ホッとするような聴き心地のサウンドを集めました。

　宅録で生み出すメロウサウンドが魅力のAndre Either（8曲目）、歌詞に心打たれるTyler, The Creatorの新曲（9曲目）、変幻自在の作風で短期間にリリースを重ねるDamian Jurado（12曲目）……などなど、今月は紹介したい作品がたくさんありました。長くなりましたので、また来月。次回は春が覗く頃でしょうか。芽吹きを探しに行きたくなるような、軽快な音楽をセレクトします。

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