Good for Me 編集部が出合ったベターライフ。
誰かの興味に寄り添ってくれる逗子の古本屋『古本イサド ととら堂』。 / 26歳編集者のベターライフを探す旅 #2January 18, 2025
“好み”という境界線をなくして本を探す。
私にとって大切なキーワード「ヒト」との関わりから生まれた発見をまとめたこの連載。今回は、逗子で出合った古本屋『古本イサド ととら堂』を紹介します。
冬の寒さに負けてついつい家に篭ってしまいますが、「会いたい人に会える」約束があれば重い腰もすんなり上がります。年末は、イラストレーターの日向山葵さん、グラフィックデザイナーの岡本太玖斗さんと一緒に、いつもお世話になっている編集者の高橋直貴さんが住む街・逗子に遊びに行きました。
JR横須賀線に乗車後、横浜、鎌倉を過ぎ、都内から1時間ほどで逗子駅に到着。久しぶりのお昼からの予定にワクワクしながら、高橋さんが教えてくれた店を巡りました。その1つが、以前から気になっていた古本屋『古本イサド ととら堂』です。
駅前銀座通りの脇道を入ってすぐにある一軒家。大人一人がやっと通れるほどの通路をカニ歩きをしながら店の奥へと進むと、文芸、美術、写真......などさまざまなジャンルの古本が棚いっぱいに並んでいます。あまりの物量に「これは1日では見切れない!」と、その日の解散後にもう一度店に戻り、閉店の時間まで居続けました。そして年明けすぐに再訪し、2週間で3回も足を運ぶほど、私はこの店にハマったわけです。
もともと学芸大学にある『古本遊戯 流浪堂』で働いていた店主の木村海さん。長年東京で勤めた後、なぜ逗子にお店を開いたのか? この地に馴染みのない私に、「逗子は全部がちょうど良い距離にあるんだよ」と教えてくれました。
都内に住んでいても1時間あればフラッと行くことができるので、山と海に囲まれた逗子は自然を求める人にとってはちょうど良い場所なのだと。建物や住んでいる人の様子を見てもそう。それぞれが心地よい距離を保ち、窮屈さや冷たさがない。なるほど。自然や人、街全体の距離感が、この居心地の良さを作っているのだと思わず頷いてしまいました。
絵本を探す家族連れや、写真集を両手にかかえた学生。店に入ってすぐに「こんな本あるかな?」と話しかける近所のおじいさん。平日休日問わず、たくさんの人がこの場所を訪ねます。
「お客さんが求める本をいつでも提供できるのが理想かな。食の本もあれば、旅や建築、古書としてものすごく価値があるものも。僕があんまり好きじゃない作家の本もあるけど、ある人にとってはそれが大切な本になるかもしれない。好みはそれぞれだから、それらの本が混ざり合うことが良いと思うんだよね。だって、僕がやっているのは街の本屋だから。レストランに行けば、あなたが美味しいと思う料理も、そうでない料理もある。自分はどういうものが美味しいと感じるのか、実際に食べてみなきゃわからないでしょ?」
枠組みされていない空間だからこそ、誰もが気軽に立ち寄れる。木村さんが思い描く“街”に根付いた本屋とはこういうことなんだろう。私自身、普段は見逃してしまうジャンルの本も、木村さんの店では手に取ってしまうことも。ただただ本棚を眺めているだけで1日が経ってしまうけれど、この贅沢な時間が自分がコントロールできない出合いを導いてくれるのだと思います。だから何度も足を運んでしまうんだろうな。
編集部員によるリレー連載「Good for Me. 編集部が出合ったベターライフ」がスタートしました。ファッションや日用品、おいしいおやつ、旅先で見つけたもの…など、時には極めて私的な視点でお届けする編集部員のオススメはこちらから。