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バウハウスのDNAが息づく、ドイツのデザイン。世界の家具の祭典、ミラノサローネだより。写真と文:浦江由美子 (ライター、コーディネーター) #4May 29, 2025
ミラノサローネの来場者は、中国に次ぎ、私が住むドイツが2番目に多いそうだ。
買いたい人も売りたい人も多い。ドイツ人はインテリアと旅行には出費を惜しまない。一般的にもデザイン好きが多い。
ドイツのデザインといったら「バウハウス」を連想する人が多いだろう。
産業デザイン、機能性重視、大量生産の象徴のような存在。今でも復刻版は多く生産されているが、バウハウスが設立され、ムーブメントが起こってから100年以上が経つ。
わたしの家のそばのアンティーク店通りでも、バウハウスにまつわるデザイナーのアイテムは高値で販売されている。
デザイナーとして、バウハウスを無視できない存在だと思うが、自分らしさを作り上げるのに、時には、ちょっとやっかいな存在でもあるのかもしれない。色々な葛藤があると思う。
イタリアを代表する照明メーカーのひとつ〈フロス〉は、世界中の有名なデザイナーとコラボレーションを続けている。今年は、ベルリン在住のインダストリアルデザイナー、コンスタンチン・グルチッチと新しい照明「ノクチューン」を発表した。

月の繊細な輝きにインスピレーションを受けたという、吹きガラスとLED技術を融合したモジュール。
吹きガラスを使っていることで、雰囲気のある詩的な照明に仕上がっている。クリーンなデザインで定評のあるグルチッチらしいあかり。
ドイツの照明ブランド〈ミッドガルド〉の始まりは、1919年にカート・フィッシャーが開発した、ランプヘッドの角度を自由自在に調整できる読書用のリーディング・ライトだった。

1926年、バウハウスのデッサウ時代に発表された「TYO113」は、ヴァルター・グロピウスによるデザイン。
「アジャスタブル」という企業理念が現代にも生き、今年はセバスチャン・ヘルクナーがその理念を体現する新作「LOJA」を発表した。
照明に帽子のような傘をのせることで、光の方向が楽しめるというもの。

セバスチャンには、以前にフランクフルト郊外のオフェンバッハにあるアトリエで取材したことがあった。
その時は、椅子メーカー〈トーネット〉とのコラボレーションについて説明してくれた。
〈トーネット〉は、1819年創業の老舗で、曲げ木の技術を用いた量産に成功したことで知られている。セバスチャンは、特に職人とのコラボレーションを大切にしていて、そこが彼の魅力でもある。

今年は、〈ジル・サンダー〉とのコラボレーションも発表された。
ジルさまのファッションに憧れるわたしは、プレス発表デーには行けなかったものの、ブレラ芸術アカデミー近くのショールームにあさイチで出かけた。
〈ジル・サンダー〉が初めて手がけた家具のプロジェクト「JS.THONET」は、マルセル・ブロイヤーのカンティレバー椅子「S64」を、彼女自身の解釈で再構築している。
「ノーディック」と「シリアス」というシグネチャーラインが登場。ノーディックは、ニッケルシルバーのフレームに白のクリーンな色調、シリアスは、チタン加工のフレームにワインレッドや光沢のあるアイビーカラーのレザーシート、アームレストが配されていて、同じ椅子でも印象が大きく異なる。
展示スペースにはジル本人の裁断パターンも展示され、彼女にとって椅子のデザインも、ファッションと同様のプロセスでアプローチされたことが伝わる。

バウハウスのDNAは、今もドイツデザインの本質として息づいている。
サステナブルで長持ちし、機能的で飽きがこない。そんな安定感のあるドイツデザインが、私は本当に好きなのだ。
edit : Sayuri Otobe
ライター、コーディネーター 浦江由美子

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