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世界の家具の祭典、ミラノ・サローネだより。若き女性代表、マリア・ポッロの偉業。写真と文:浦江由美子 (ライター、コーディネーター) #1May 08, 2025

イタリア・ミラノで、毎春開催される世界規模の家具の見本市、通称「ミラノ・サローネ」。

ベルリンに住んでいる私はメーカーについていったり、取材したりでここ10年くらい通っている。

毎年30万人ほどの来場者がある会場だけでなく、市内のあちこちでも家具、ファッション、車、時計、化粧品メーカーと街中でデザイン関連の展示がある。毎日2万歩くらい歩いて、クタクタになるのだが、見るもの聞くもの驚きと発見の連続のデザイン祭り。

見本市なので商談がミラノ・サローネの主要な部分ではあるのだけれど、新型コロナ・パンデミック後の2020年に、初めて女性として代表に就任したマリア・ポッロの登場で、ビジネスだけでなく環境へのさらなる配慮が顕著となり、芸術的なプログラム発信が年々増えている。

彼女にとって文化への投資は企業の未来への投資。長期的な競争力の強化に繋がっているという考えだとか。

若き女性代表、マリア・ポッロの偉業。世界の家具の祭典、ミラノ・サローネだより。写真と文:浦江由美子 (ライター、コーディネーター) #1
若き女性代表、マリア・ポッロの偉業。世界の家具の祭典、ミラノ・サローネだより。写真と文:浦江由美子 (ライター、コーディネーター) #1

開催のオープニングを飾るスカラ座でのオペラには、現役で一番影響力があるだろう気鋭の舞台演出家アーティスト、ロバート・ウィルソンを招いている。

作曲家のフィリップ・グラスとの共作「海辺のアインシュタイン」で知られるウィルソンは、トム・ウエイツやレディガガ、坂本龍一などジャンルを隔てたコラボレーションを世界中で展開する。

私の住むベルリンやドイツ国内でも数々の話題作を上演してきた。

若き女性代表、マリア・ポッロの偉業。世界の家具の祭典、ミラノ・サローネだより。<i>写真と文:浦江由美子 (ライター、コーディネーター) #1</i>

彼女はウィルソンの大ファンだそうで、招くことを発表する際には感極まっていたという。

今年は2年に一度のエウロルーチェ(照明見本市)の年。ミラノの名門・ブレラ芸術アカデミーで空間演出デザインを専攻していたマリアさんは、彼に、スフォルツェスコ城にあるミケランジェロ作「ロンダニーニのピエタ(未完のピエタ)」の照明・音楽の演出も依頼した。

その「Mother」という作品は、ミラノ市文化局とのコラボレーション。私が参加した回は遅い時間だったこともあり、集まっていたのはイタリア人がほとんど。彼らにとって、何度も見たことのあるミラノのピエタを、また違った視点で見れたのは新鮮だっただろう。

若き女性代表、マリア・ポッロの偉業。世界の家具の祭典、ミラノ・サローネだより。<i>写真と文:浦江由美子 (ライター、コーディネーター) #1</i>

ブレラ地区にあるマリアさんの母校である芸術アカデミーに立ち寄ると、広い中庭に回転する巨大なライブラリーのインスタレーションがあった。この「ライブラリー・オブ・ライツ」は、イギリス人舞台デザイナー、アーティストのエス・デヴリンによる作品。去年はドイツのキッチンメーカーの展示をしていた空間がまったく姿を変えていた。

若き女性代表、マリア・ポッロの偉業。世界の家具の祭典、ミラノ・サローネだより。<i>写真と文:浦江由美子 (ライター、コーディネーター) #1</i>

本棚に並ぶ本はイタリア語が多かったけれど、知っているタイトルもあり、少し嬉しく思った。本が好きというマリアさんもこのインスタレーションに数冊、寄付したそうだ。デジタルは避けられない時代になっても、手にとった本の装丁やイラストやタイポグラフィーとデザインの宝庫。

ミラノには、スカラ座や大聖堂、ピエタ美術館、そしてサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会に所蔵されているダヴィンチの最後の晩餐など、世界に誇る名所がたくさんある。

毎年、新しい商品を発表するサローネが、ミラノ市内でのこうした歴史あるイタリアの文化遺産を見直す大きなチャンスを世界に発信している。

デジタル化もビジネスのためには必要だけれど、立ち止まって過去の創造がデザインに繋がってということをマリアさんは世界に伝えたいのだ。

時代の変化に合わせて、世代交代とも言われている。代表が変わると、こんなにも視界が変わる。今年はミラノがますますワクワクする街に見えた。

edit : Sayuri Otobe


ライター、コーディネーター 浦江由美子

浦江由美子
1965年東京都生まれ。1992年よりベルリンを拠点にヨーロッパ各地のライフスタイルやデザイン、アートに関するインタビューや執筆、取材コーディネートを行っている。ベルリンと大分県竹田市を繋ぐ文化交流プログラム「ベルリン竹田会」主要メンバー。

urae.de

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