&EYES あの人が見つけたモノ、コト、ヒト。

物語を売る店『けやき通りギャラリー106』。私の好きな福岡:2 写真と文:Yuki Matsuo (「All-You-Can-Eat Press」主宰) #2June 09, 2025

ニューヨークに暮らしていた頃、週末のルーティンといえば、早起きをしてフリーマーケットへ行くことだった。

ブースを一軒ずつ見て回りながら、長年通ううちに親しくなったベンダーさんたちと言葉を交わす。みなさん、その道数十年のチャーミングな“センパイ”で、“モノ”にまつわる歴史やエピソードを教えてくれる、私にとってはメンターでもあった。

“モノ”との出合いがあることもあれば、手ぶらで帰ることも多く、むしろ“センパイ”たちとのおしゃべりが楽しくて通っていたのかもしれない。

福岡へ移住してきて、その楽しみがなくなるのが寂しいなと思っていたら、福岡でもとびきりチャーミングな“センパイ”に出会った。

けやき通りギャラリー106』は、金曜日と土曜日の午後にだけひっそりとオープンするギャラリー。

物語を売る店『けやき通りギャラリー106』。私の好きな福岡:2 写真と文:Yuki Matsuo (「All-You-Can-Eat Press」主宰) #2
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物語を売る店『けやき通りギャラリー106』。私の好きな福岡:2 写真と文:Yuki Matsuo (「All-You-Can-Eat Press」主宰) #2

決して広くはないスペースの、一階、半地下、そして細い階段を登ったロフトに、オブジェやアート作品、道具や器、民芸品、郷土玩具などが所狭しとディスプレイされている。

その一点一点は作られた時代も国もバラバラなのに、空間の中であるべき場所にすっぽりと収まり、不思議な世界を作り出している。

雨の日は、普段は外に並べられている椅子が通路を遮り、奥までたどり着けないこともある。

アイテムにはどこにも値段はついておらず、それが売り物なのかどうかさえわからない。

オーナーとの交渉次第で、もしかしたら譲ってもらえるかもしれない……。言ってしまえば不親切で、商売っ気のない、とてもユニークなギャラリー。“モノ”を介して、オーナーとのコミュニケーションを楽しむ、そんな特別な場所でもある。

物語を売る店『けやき通りギャラリー106』。私の好きな福岡:2 写真と文:Yuki Matsuo (「All-You-Can-Eat Press」主宰) #2
物語を売る店『けやき通りギャラリー106』。私の好きな福岡:2 写真と文:Yuki Matsuo (「All-You-Can-Eat Press」主宰) #2

壁に作り付けられた本棚には、オーナーが長年にわたって集めてきたデザイン、建築、アート関連の貴重な書籍やエッセイ、雑誌がぎっしりと並んでいる(本はすべて非売品)。

ここまで読むと、ちょっと気難しそうな店主を想像するかもしれないが、オーナーの前田勝利さんは、建築家であり、福岡の人気スリランカカレー店『ツナパハ』や『ヌワラエリヤ』のオーナーでもある。

そして週に2日だけ、このアトリエのようなギャラリーに自ら立つ、至って穏やかでとてもチャーミングな“センパイ”だ。

天気のいい日は、外に出した椅子か、ロフト奥のデスクに座っていらっしゃる。

壁には、様々なエキシビジョンのフライヤーやポストカード、雑誌の切り抜きなどが、カラフルなマスキングテープでピンナップされている。無造作なようで、それはまるでひとつのコラージュ作品のようでもある。

物語を売る店『けやき通りギャラリー106』。私の好きな福岡:2 写真と文:Yuki Matsuo (「All-You-Can-Eat Press」主宰) #2
物語を売る店『けやき通りギャラリー106』。私の好きな福岡:2 写真と文:Yuki Matsuo (「All-You-Can-Eat Press」主宰) #2
物語を売る店『けやき通りギャラリー106』。私の好きな福岡:2 写真と文:Yuki Matsuo (「All-You-Can-Eat Press」主宰) #2

額装された絵画やポスターの中に、素敵な水彩画を見つけた。

尋ねてみると、前田さんが1976年に描いた志賀島の風景だそう。

「落書きみたいなもんだよ」と言うが、パースの正確さと迷いのない線、なんとも味のある作品だ。最近また身近な風景をスケッチしているそうで、ご自身がアーティストなのだ。

ニューヨークで出会った“センパイ”たちもそうだったように、“モノ”を愛してやまない人には、不思議なほど“モノ”からも愛され、自然と集まってくるのかもしれない。これだけのモノに囲まれていながら、今も増え続けているという。

生き方そのものがアーティスト、素敵なメンターのいる福岡がますます好きになりそうだ。そして今日もまた、気になった作品を指差して恐る恐る聞いてみる「これは売り物ですか?」。

物語を売る店『けやき通りギャラリー106』。私の好きな福岡:2 写真と文:Yuki Matsuo (「All-You-Can-Eat Press」主宰) #2

Shop Informationけやき通りギャラリー106

住所:福岡市中央区赤坂2丁目6-5 パーツハイツ赤坂106
営業時間 : 金・土13時頃〜


「All-You-Can-Eat Press」主宰 Yuki Matsuo

Yuki Matsuo
食と食にまつわるカルチャーを出版する「All-You-Can-Eat Press」主宰。「Yuki&Daughters」として食をテーマにしたソフトスカラプチャーを制作。2022年より拠点を福岡に移し活動中。

instagram.com/allyoucaneatpress

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